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デジタルアーカイブを活用した大学教育プログラム~琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科・琉球民俗学野外実習での取り組み(2)

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デジタルアーカイブを活用した大学教育プログラム~琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科・琉球民俗学野外実習での取り組み(2)
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文・写真:高橋そよ(琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科 准教授)

 琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科・高橋そよ研究室(琉球民俗学)は、昨年度に引き続き、南城市教育委員会との覚書のもと、2023年度も、なんデジで公開されている古写真データを利用した大学教育プログラムの開発に取り組みました。今回はその背景と学生たちのレポートを紹介します。(レポートは、本ページ下のリンクよりご覧いただけます)

 2023年4月から8月にかけて、琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科・高橋そよ研究室(琉球民俗学)では、南城市冨祖崎地域にて、なんデジで公開されている古写真データを利用した大学教育プログラム「琉球民俗学野外調査」を行いました。この授業は、人文社会学部琉球アジア文化学科歴史・民俗学プログラムの専門科目の一つです。この授業の目的は、フィールドワークでの「問い」の立て方からインタビュー、文献調査、データの整理など、民俗学の基礎的な調査方法を習得することです。今年度は、琉球弧の歴史や文化に関心のある2〜4年生を中心に、14名が受講しました。昨年度は、コロナ禍の影響を受け、対面でのインタビューを控えるなど、学生たちは思うようにフィールドに出ることはできませんでした。しかしそのような困難さに対して、地域の方にご協力をいただき、往復書簡インタビューを試みるなど、新しいフィールドワークのあり方を模索することができました。

 今年度は、2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症が「5類感染症」に移行したことを受け、南城市教育委員会と冨祖崎の区長さんとの話し合いにより、感染症予防対策を十分に取ることを条件とし、集落内での対面インタビューを快諾いただきました。

 2023年6月、冨祖崎では字100年の歩みを記した『字誌冨祖崎 : ハマジンチョウの里』が刊行されました。5月16日、南城市教育委員会とともに、冨祖崎公民館へ協力依頼のご挨拶に伺ったこの日は、編集委員の皆さんが最後の作業として、公民館のホールで印刷されたゲラ(原稿)の確認をしていました。冨祖崎では、2007年に「字誌冨祖崎」編集委員会を立ち上げ、地域住民が主体となって聞き取り調査や文献・写真資料を収集し、記録に取り組んできました。16年間にわたる活動にたずさわってきた編集委員の玉寄勉さんは、「何度も原稿を読み合わせながら編集してきた。世代を超えて区民の宝ものになれば」とおっしゃいました。そして、その場にいらっしゃった字誌編集室長の知念進さんは、おもむろに「字誌の取り組みで集めてデジタル化した写真を見ますか」とおっしゃいました(写真1)。そして、事務室のコンピューターにデジタル保存された写真資料群を見せてくださいました。そこには、青年たちが陸上競技や芸能の場などで力強く笑い、演舞する姿がありました。それらは、地域の豊かな社会的なつながりが映し出された大切な思い出でもあり、沖縄の戦後復興期から高度経済成長期へと暮らしの変化を読み解くことのできる重要な地域の歴史文化資料でもありました。これらの写真には、地域の方のどのような思い出やエピソードがあるのでしょうか。今年度は、冨祖崎の皆さんにご協力をいただきながら、字誌編纂活動を通して収集された写真資料にまつわる、まだ文字に記されていない「声」の記録に、学生たちと一緒に取り組むことになりました。

写真1「字誌冨祖崎」編集委員会の知念さんと玉寄さん

 この野外実習が始まる前に、編集委員の皆さんから励まされた一言があります。「刊行のタイミングで、冨祖崎でフィールド調査を行うことは、学生たちにとっても、地域住民が主体となって地域の歴史文化を記録することの社会的な意味を学ぶ大事な機会となる」と、背中を押していただきました。

 こうして、南城市冨祖崎の皆さん、南城市教育委員会「なんじょうデジタルアーカイブ」との協力のもと、2023年度の「琉球民俗学野外調査」がスタートしました。

 大学の授業では、デジタルアーカイブを使った古写真調査に向けて、まず初めに座学として3つのワークをしました。

1) 個人ワークとグループディスカッション(「フィールドワーク論」に関する先行研究を読み、問いの立て方や調査方法について具体的に議論をする)
2) ペアワーク(インタビューの練習)
3) グループワーク(冨祖崎地域に関する下調べ)

 これらの授業を通して、学生たちは、他者とコミュニケーションをとる際に気をつけることなど、フィールドに出る前の心づもりをイメージすることができました。しかし、実際のフィールドワークは、そう簡単ではありません。多くの受講生にとって、(特にコロナ禍だったこともあり)、家族以外の「他者」へインタビューをすることは初めての経験でした。その後、フィールドに出た学生たちは、事前に用意していた質問がうまく噛み合わなかったり、思いがけない方向へ話が展開することで新たな「問い」に気づくなど、戸惑いと高揚感とのあいだを右往左往することになります。その戸惑いと高揚感のあいだで、自分自身の「問い」と「ことば」を見つけようと、努力をしてきた学生たちの成長には目を見張るものがありました。このように、学生たちの意識と行動の変容を支えてくれたのは、何よりも学生との対話に向き合ってくださった地域の方々でした。

 ここに、この取り組みの中で学生たちが学んだ地域の歴史と文化に関するレポートをご紹介します。まだまだ理解不足のところも多々あると思います。今後とも、南城市に通いながら地域の歴史文化を学んでいきたいと考えております。誤りや新しい情報提供などありましたら、ぜひお知らせください。

 本授業の実施にあたり、冨祖崎集落の屋良区長をはじめ地域の皆様、南城市教育委員会の皆様、スタートライン株式会社の深谷慎平さんには大変お世話になりました。ここに感謝を記します。

レポート一覧

『字誌 冨祖崎 ハマジンチョウの里』編纂事業と編集委員・玉寄勉さんのライフヒストリー
女性たちと地域活動
冨祖崎の人々の生活に伴う井戸利用の変遷
冨祖崎の食と健康
冨祖崎の戦争経験
冨祖崎のスポーツ活動
生業の場としての冨祖崎海岸
冨祖崎の社会組織
南城市冨祖崎の防災
冨祖崎の交流
ライフヒストリーからみる冨祖崎の地域史

実習の様子

2023年6月3日 座学

座学の授業として、「地域資料を記録し、受け継ぐ−南城市「なんじょうデジタルアーカイブ」古写真調査の取り組みから」をテーマに、南城市教育委員会の照屋さんとスタートライン株式会社・深谷慎平さんに、自治体アーカイブの特徴と調査方法について具体的に事例を示しながら講義をいただきました。

2023年6月10日 巡検

「字誌冨祖崎」編集委員会の皆さんに、集落を案内いただきました。

2023年6月17日 第1回インタビュー

冨祖崎公民館にて、4つのグループに分かれて第1回目のインタビューを行いました。まずは、どんなことに関心があるかを伝えるなど自己紹介をし、ゆっくりお互いを知る時間となりました。そして、そこから学生と地域の方が対話をしながら、この聞き取り調査で考えたいテーマを共に検討していきました。

授業

授業では、フィールドで学んだことを持ち帰り、グループごとに聞き取りした情報と考察したことを整理しました。そして、そこから新たな疑問を議論し、次のインタビューで伺う質問項目を検討するなど、調査計画書を見直しました。この工程を数回繰り返すことで、学生たちは最終レポートとして取り組む探究したい研究テーマを徐々に明確にしていきました。

グループごとに中間報告。
KJ法で、聞き取りした情報と考察したことを整理し、新たな問いをディスカッションする。

3回目以降のインタビュー

インタビューの雰囲気は、回を重ねるごとに和んできました。インタビューはグループごとに4〜6回実施しました。

2023年9月10日 報告会

冨祖崎公民館で、南城市教育委員会と合同で、現地報告会と古写真トークイベントを実施しました。当日は40名を超える地域の方が参加されました。