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冨祖崎のスポーツ活動

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冨祖崎のスポーツ活動
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琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科 仲宗根旺人

1. はじめに

 冨祖崎の写真資料を見ると、佐敷町陸上競技大会での優勝写真などがある。調べると、冨祖崎では陸上競技大会に精力的に取り組んだ歴史があり、大会記録に残る成績も数多く存在した。今回調査に協力していただいた楚南さんも1984年の大会で、40代800m走の記録保持者だ。佐敷町の歴代9位の栄誉がある。冨祖崎では、スポーツに取り組む方が多くいたと考えられる。また、写真の中には運動会で車ハーリーと呼ばれる競技を行うものがあった。冨祖崎では、記録だけでなく新しい種目を作ろうとする創造的な面もあることがわかる。このような関心から、本調査では冨祖崎のスポーツ活動を調べ、過去にどのような活動が行われていたかを明らかにし、今後冨祖崎ではどのようにスポーツ活動が行われていくのかを考察することを目的とする。

2. 聞き取り調査

話者 楚南幸明さん(昭和17年⦅1942年⦆12月9日生まれ)
調査日 
2023年6月17日(土)
2023年7月11日(火)
2023年7月20日(木)
2023年8月3日(木)

佐敷町陸上競技大会(C000006790)

旧佐敷町では陸上競技大会が1947年から50年以上行われてきた。冨祖崎もこの大会に参加しており、優秀な成績を多く残している。写真は1965年に優勝した時のものである。聞きと調査によると、このような優秀な成績を残した背景には、日々の練習や恵まれた練習場所があったという。集落の陸上サークルでは夜中にオートバイで道を照らして走り込んだり、首里の大学まで遠征して練習するなど、多くの努力があった。さらに、冨祖崎は練習場所に恵まれており、塩田を埋め立てた土地に、テニス場や野球場に運動場があった。長距離走の練習は道路で行っていた。8月に行われる冨祖崎区民運動会で優秀な成績を残した者は、町の陸上競技大会のメンバーに選出された。この陸上競技大会は現在も南城市陸上競技大会として残っているが、後述するように、冨祖崎は2016年からは参加をしなくなったという。

〈冨祖崎区民運動会〉
冨祖崎では1961年から区民運動会が行われている。冨祖崎区民運動会には数多くのユニークな競技が存在する。その一つが「車ハーリー」である。この競技は「ジーバーリー競争」とも呼ばれ、冨祖崎で長く行われてきた競技である。下の写真は車ハーリー行っている様子である。

C000006773

車ハーリーとは、車(軽トラ)の上に乗った人が棒で地面を押し、車を進ませて速さを競う競技である。各班対抗で競われ、1班から5班まで並べて同時にスタートする。スタート地点からゴール地点までは70メートルある。
この競技が行われるようになった理由は、冨祖崎の土地に関係がある。冨祖崎の東側には海があるが、遠浅のため、そこでは舟を漕いでハーリーを行うことのできる時間が満潮時の3時間だけであった。このため、集落の行事としてハーリーを行うことが難しかったという。このような背景から、2015年に区民運動会の種目を決める際、他の地域で車ハーリーが行われていたのを知り、この競技を始めることにしたという。
 聞き取りによると、冨祖崎には車ハーリー以外にも、次のような種目が存在することが分かった。

・100m競争
・1500m競争
・ミカン拾いとパン食い競争
・ムカデ競争(10名ほどで列を組んで足を紐で結び競争する)
・俵かつぎ競争
・野菜リレー(指定された野菜をもってリレーを行う。終わったらその野菜がもらえる)
・買い物レース(女性4名が出て野菜を探してリレーを行う)
・障害物競争
・タイヤ転がし
・風船割り
・輪投げ(3,5m離れた棒に輪を入れる)
・ゲート通過競争(4.5m先のゲートをくぐれば成功)
・男女混合400mリレー
・大綱引き(1~3班と4~5班に郷友会を加えたチームにわかれ2回勝ったほうが勝利)

 100m競争や綱引きはもちろん、ムカデ競争や野菜リレーなど珍しい競技も見受けられた。冨祖崎の区民運動会の種目は少しずつ内容が変わり、現在の形になったという。その理由を伺ったところ、若い人もお年寄りも楽しめることを重視するようになったとのことである。そのため、住民から出たアイデアを取り入れ全員が楽しめるようなプログラムとなった。

例として、下は2015年に行われた区民運動会のプログラムである。
平成27年度(2015年)冨祖崎区民運動会
09:30 開会式
10:00 徒歩競争
10:20 ボール運び競争
10:40 小学生リレー
11:00 三角ボード競争
11:20 買い物レース
11:35 1500m競争
11:50 100m競争
12:00 余興・踊り
12:10 平成27年度敬老会
~昼食~
13:30 障害物競争
13:50 輪投げ投げ
14:10 ミカン拾いとパン食い競争
14:20 ゲート通過競技
14:40 ジ―バーリー競争(車ハーリー)
15:00 400mリレー(男女混合)
15:15 大綱引き
15:30 ~閉会式~

 合計で14の競技が行われ、全体で約6時間に渡り運動会が行われている。この区民運動会は現在も続けられているが、金銭面や住民の負担を考慮して2年に1回の開催となった。開催される場合は、毎年行われる敬老会も同じ日に行われる。2015年の運動会では、上記のプログラムにあるように、敬老会(12:10)も一緒に行われた。

現在の冨祖崎のスポーツ活動とこれから
 冨祖崎では、陸上競技大会などで好成績を残し、スポーツ活動が盛んであったことがこれまでの調査で分かった。しかし、現在の冨祖崎のスポーツ活動について聞いたところ、最近はスポーツ活動が下火になってきているようだ。字として陸上競技大会へ参加しなくなったことや、スポーツ活動を盛んに行っていた青年会が消滅したことが影響しているという。
 そのため、現在は大会に出ることよりもスポーツを楽しむことが重視されるようになり、区民運動会など形を変えて行っていた。また、スポーツ活動への支援もある。2016年に作られた尚巴志育英会では、青少年の文化・スポーツ活動の発展を目的とし、大会出場の遠征費の支援にも充てられているという。

3. 考察

 冨祖崎ではスポーツ活動が盛んで陸上競技大会などで多くの記録を残してきたが、現在ではスポーツを皆で楽しもうという方針に変わるなど、 スポーツをすることの社会的な意義が変遷していることがわかった。スポーツ活動が下火になっているという話を伺ったときはスポーツをしなくなったのだろうかと考えていた。しかし、区民運動会などの話を聞くと、スポーツを老若男女問わず楽しめるようにしようと前向きなほうへ活動が続けられていることを知った。さらに楚南さんと会話を続けていくと、陸上競技大会で多くの努力や先輩方と協力してより質のいい練習をしようとしていたことを力強く語ってくれた。冨祖崎でスポーツ活動が形を変えながら残っているのは、昔のスポーツ活動の情熱が今でも残り続けているからではないだろうか。
 今回調査に協力していただいた楚南さんは現在でもジョギングを続けスポーツ活動に精力的である。尚巴志育英会の支援など、地域の子どもたちの文化・スポーツ活動を地域で支える仕組みある。今後も冨祖崎では年齢を問わず、誰もが楽しむことができるようなスポーツ活動を目指して活動が続けられていくのではないだろうか。

4. 終わりに

 本調査を通し、調査を続ければ続けるほど知りたいことが増えていくことを実感した。当初は冨祖崎の行事について興味があり聞き取り調査をしていた。しかし、区民運動会での車ハーリーをきっかけに冨祖崎のスポーツ活動に興味がわき、その他の競技や現在のスポーツ活動なども調べるようになった。その結果、調べるテーマが年中行事から冨祖崎のスポーツ活動に変化した。この点については聞き取り調査を始める前にもっと下調べしてテーマを絞っていれば、聞き取り調査の中でテーマについてより深く質問ができたのではないかと反省している。調査の中で迷わないよう、自分の問い・テーマを明確にすることが今後意識しなければならない課題である。
 しかし、少ない調査の中でも楚南さんの考えや冨祖崎のスポーツに関わる歴史を見ることができた。スポーツ活動に対して、力強い冨祖崎の姿勢を知ることができたのは、今回の調査での大きな意義になったと考える。また、楚南さんからお聞きしたことは、字誌には載っていないことも多く、貴重なお話を伺うことができたと感じている。

参考文献

冨祖崎区字誌編纂委員会(2023)
 『ハマジンチョウの里 字誌 冨祖崎』冨祖崎公民館.