なんじょうデジタルアーカイブ Nanjo Digital Archives

デジタルアーカイブを活用した大学教育プログラム~琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科・琉球民俗学野外実習での取り組み

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デジタルアーカイブを活用した大学教育プログラム~琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科・琉球民俗学野外実習での取り組み
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文・写真:高橋そよ(琉球大学人文社会学部准教授)

 なんじょうデジタルアーカイブ、通称「なんデジ」では、地域や市民の方々から寄せられた多くの古写真が公開されており、条件を満たせば、これらの写真や資料は利用が可能です。収集、保管、権利処理などはもちろんのこと、それらと同様に大切なのが「活用」です。例えば、教育や観光、さらにはまちづくりなど、市民生活の充実や各種権利の担保に、デジタルアーカイブが寄与するものであると考えています。その活用例の一つとして、2022年4月から8月にかけて、琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科・高橋そよ研究室(琉球民俗学)が、なんデジで公開されている古写真データを利用した大学教育プログラム「琉球民俗学野外調査」を行いました。今回はその背景と学生たちのレポートを紹介します。(レポートは、本ページ下のリンクよりご覧いただけます)

 2022年4月から8月にかけて、琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科・高橋そよ研究室(琉球民俗学)では、なんデジで公開されている古写真データを利用した大学教育プログラム「琉球民俗学野外調査」を行いました。この授業は、人文社会学部琉球アジア文化学科歴史・民俗学プログラムの専門科目の一つで、民俗学の基礎的な調査方法を習得することを目的としたものです。2022年度は、琉球の歴史や文化に関心のある2〜3年生を中心に、20名が受講しました。
 ところが、2022年度もコロナ禍の影響を受け、沖縄では民俗学において大切な地域の方への対面インタビューが難しい状況が続きました。そんな時、南城市教育委員会の新垣瑛士さんと田村卓也さんから、南城市の津波古にある珊瑚舎スコーレ中等部さんのなんデジで公開されている古写真データを利用した素晴らしい地域学習プログラムの取り組みと、お手紙による聞き取り調査の可能性について教えていただきました。そこで、ぜひ私たちも珊瑚舎スコーレさんの取り組みを参考にし、古写真とお手紙をもとに、コロナ禍に立ち向かう新しい民俗学的調査に挑戦することにしました。
 2022年4月、調査に向けて、南城市教育委員会と私の研究室(琉球民俗学)と「デジタルアーカイブ等を活用した地域資料の収集・発信事業に関する覚書」を結びました。これは、デジタルアーカイブ等を活用した地域資料の収集・保全・継承に向けて、教育委員会と協力しながら民俗学の大学教育プログラムを検討することを目的としたものです。この覚書をもとに、南城市教育委員会と調査地や成果発信の方法を相談しました。その中で、南城市南部に位置する旧玉城村前川集落を紹介いただきました。当時、前川集落では、すでに写真資料の収集とデータ化が完了していました。そこで、その地域資料群のなんデジ公開に向けて、大学生と地域の方との対話から、特に復帰以降の前川の暮らしにまつわるエピソードを記録することを目指すことにしました。
 はじめに、南城市教育委員会と前川公民館へ授業の趣旨説明と調査協力のお願いに伺いました。知念区長はコロナ禍にある大学生たちが地域や社会と関わる機会が少なくなっていることを杞憂され、感染症対策をしっかり取ることを条件とし、協力依頼を快諾くださいました。地域の方への聞き取り調査は、公民館で対面を1回、その後は往復書簡でインタビューさせていただくことになりました。
 デジタルアーカイブを使った古写真調査に向けて、まず初めに授業では、地域資料保全の意義とデジタル技術を活用した人文情報学の可能性について理解するため、3つのゲスト講義を行いました。はじめに、南城市教育委員会デジタルアーカイブ担当の田村卓也さんから「地域の“記録”と“記憶”を共有する:「なんじょうデジタルアーカイブ」の取り組み」というテーマで、自治体デジタルアーカイブの取り組みとその社会的な意義について講義いただきました。そしてその論点を受けて、翌週には人文情報学を専門とする国立歴史民俗博物館の後藤真先生をお招きし、「地域歴史文化資料の保全とデジタルヒューマニティーズ」をテーマに講義をいただきました。また、スタートライン株式会社の深谷慎平さんから、これまで南城市教育委員会とともに前川集落で行ってきた写真収集調査の様子についてお話を伺いました。これらの授業を通して、学生たちは、地域歴史文化資料の継承が直面する様々な社会課題に対して、地域の多様な歴史や文化を記録し、学ぶことの意味を考えることができました。

2022年5月16日、むらやー(公民館)にて、地域の方やこれまで古写真調査に関わってこられた南城市教育委員会の担当の方々と第1回目の顔合わせをしました。
2022年5月16日、知念区長に案内頂きながら、集落を歩きました。
前川の民間防空壕。


 こうしてたくさんの方の協力を得ながら、前川での民俗学野外調査が始まりました。特に知念区長には、まずは集落の様子を理解しようと、前川集落を案内いただきました。前川集落は、1700年代に集落の北東にある糸数から移動してきた人々が拓いたと言われ、積み石で囲った屋敷や石畳が残る古い集落です。集落は南側向きの急な斜面に、細い道が碁盤の目のように区分けされている伝統的な集落形態を残しています。斜面の最も高いところには「お宮」と呼ばれる知念の殿があります。知念区長による集落歩きでは、まず初めにこのお宮から集落全体を眺めることから始めました。それから、斜面の下にあるかつて馬場だった「農村広場」に向けて、井戸のあった場所やサーターヤー(サトウキビを絞る小屋があった場所)、かつて村芝居を行ったバンクと呼ばれる場所、戦後の米軍統治下時代に弁務官資金によって整備した水道ボーリング地などを巡りながら、知念さんが小さな頃の暮らしについてお話を伺いました。
 そして、学生たちはそれぞれ関心のある6つのテーマに分かれて、デジタル化された写真資料群から気になる写真を選定しました。そして、その写真に関する文献や新聞記事を収集し、研究テーマを設定し、地域の方にお聞きしたい質問項目を検討しました。お手紙による調査では、多くの地域の方にご協力をいただきました。学生たちの書簡インタビューという慣れない作業にも、丁寧に対応いただきました。その書面からは、戦後復興期の前川では、地域の方々が芸能や青年会、婦人会などの社会組織を通して結束しながら、地域づくりを行ってきた歴史を知ることができました。学生たちは、対面インタビューができないという制約の中でも工夫しながら、ご協力いただいた地域の方と信頼関係を築きながらお手紙を交わしました。
 ここに、この取り組みの中で学生たちが学んだ地域の歴史と文化に関するレポートをご紹介します。まだまだ理解不足のところも多々あると思います。今後とも、南城市に通いながら地域の歴史文化を学んでいきたいと考えております。誤りや新しい情報提供などありましたら、ぜひお知らせください。

 本授業の実施にあたり、前川集落の知念区長をはじめ地域の皆様、南城市教育委員会の皆様、スタートライン株式会社の深谷慎平さんには大変お世話になりました。ここに感謝を記します。

2023年2月17日 

琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科 准教授 高橋そよ
(琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科ウェブサイト

令和3年度に収集した前川の古写真
デジタルアーカイブを活用した地域学習~珊瑚舎スコーレ中等部での取り組み

レポート一覧

A班「南城市前川のお墓と門中のこと」
B班「芸能のまち前川の今」
C班「古写真の謎を追って 前川年中行事・250周年記念式典」
D班「前川婦人会における地域交流」
E班「前川の公民館ってどんなところ?」
F班「古写真からみる前川の農業と簡易水道の変遷」