文・写真:深谷慎平(スタートライン株式会社)
なんじょうデジタルアーカイブ、通称「なんデジ」では、地域や市民の方々から寄せられた多くの古写真が公開されており、条件を満たせば、これらの写真や資料は利用が可能です。
収集、保管、権利処理などはもちろんのこと、それらと同様に大切なのが「活用」です。例えば、教育や観光、さらにはまちづくりなど、市民生活の充実や各種権利の担保に、デジタルアーカイブが寄与するものであると考えています。活用例の一つとして、南城市の津波古にある珊瑚舎スコーレ中等部が、なんデジで公開されている古写真データを利用した地域学習プログラムを行っています。今回はその様子をご紹介します。
子どもたちが地域のお年寄りに聞いたエピソードは、なんデジ内で公開し後世に残す
このプログラムがスタートしたのは2021年9月でした。当時、琉球新報でなんデジに関する記事を読んだスコーレの先生が「ぜひうちでデジタルアーカイブを取り入れたプログラムを行いたい」と連絡をくれたことがきっかけでした。地域の大切な記録である古写真を使って、津波古の歴史とともに、どう地域課題と向き合い乗り越えてきたのか、地域のお年寄りにお話を伺おう、というのがプログラムの趣旨でした。
しかし、最も大切にしたのは、お年寄りから伺ったお話をしっかりとまとめ、なんデジにて記録及び公開し、後世に残していこうという点でした。このプログラムの受益者はスコーレ中等部の生徒だけでなく、社会全体であると位置付けたのです。
津波古公民館の手厚いサポート。お年寄りも非常に協力的。地域が一体化して歴史を記録
まず行ったことは、津波古公民館への協力依頼でした。そもそも津波古公民館では、以前から地域の歴史の記録や継承活動に熱心だったこともあり、なんデジ公開の際も多くの古写真を提供してくださいました。高江洲順達区長も、子どもたちのためならということで依頼をご快諾頂き、地域のお年寄りやご自身のエピソードの紹介など、率先してこのプログラムにご協力いただきました。
まずは津波古の歴史を大まかに学ぼうということで、11月には高江洲区長とともに、津波古のメインストリートだった桟橋通りを歩きます。ところどころで古写真を資料として用いながら、かつての津波古公民館での思い出、並びにあった津波古売店でのお話などを伺いました。
その後、生徒たちは数百枚に上る津波古の古写真の中から、興味を持ったものをピックアップ、質問事項を考えつつ、同時に高江洲区長にはお話を伺う先輩のご紹介をお願いしました。作業は順調に進み、ヒアリングまであと少しというときに、思わぬ壁が立ちはだかります。それはコロナの第六波でした。
直筆のお手紙を添えてアンケートを作成。最終的に11の新規エピソードを記録、なんデジで公開
直接の対面はできなくなりましたが、それならばアンケート形式で記入いただき、ひとまずそれを記録の第一弾にしようと、生徒を交えた話し合いで決まったのは2022年1月でした。さらに、アンケート用紙を送りつけるだけでなく、なぜこの写真に興味を持ったか、何を知りたいのかなど、地域の先輩に敬意を表する意味も込めて、手書きのお手紙を添えて、高江洲区長に託しました。
その後高江洲区長は、ご協力頂ける地域の先輩方にアンケートと手紙を届けてくださって、数日後にはたくさんの答えが記入されたアンケート用紙が返ってきました。最終的には11のエピソード★を記録することができ、なんデジ及び南城アーカイブツーリズムのサイトで公開しています。
地域の歴史は地域の資料と地域の人で記録していく、それらが未来の誰かに活用されて、よりよい社会づくりに寄与する─。今回伺った先輩方の貴重なエピソードはもちろん、記録や公開に至るまでのプロセスやノウハウも、実は重要な地域資源であることを認識させられたプログラムでした。
★生徒たちの収集したエピソードは、こちらよりご覧いだたけます。