
【南城市の戦後産業調査レポート 3】有限会社 板馬養殖センター

【南城市の戦後産業調査レポート 2】株式会社 なかむら食品

2025年度 沖縄国際大学経済学部経済学科 専門演習 ~南城市の戦後産業調査~
南城市は沖縄本島南部に位置し、豊かな自然と海に囲まれた地域です。古くから農業や漁業が盛んであり、地域の資源を活かした産業が発展してきました。私たちは、そのなかでも養殖業に注目しました。今日の日本の水産業が高齢化や後継者不足、環境変化など、さまざまな課題に直面しているなかで、養殖業は、地域の特性を活かしながら持続可能な水産業を支える取り組みの一つとして期待されています。そこで、私たちは、南城市知念にある有限会社 板馬養殖センターを訪れ、代表の照喜名朗さんにお話を伺いました。
―創業に至る経緯
照喜名さんは、昭和54年(1979年)ごろから三重県にある志摩半島で真珠養殖を行っていた友人のところで働いたことがきっかけで、水産業に関わりはじめました。志摩半島の入り江はリアス海岸となっており、真珠養殖の他に海女さんによるアワビや伊勢エビなど海産物の採取も行われています。また、他に山の幸にも恵まれており、照喜名さんは、志摩半島の食べ物や居住にも魅力を感じていたといいます。
しばらくして沖縄に戻り、(有)板馬養殖センターに入社したのが昭和58年(1983年)のことでした。「1~2年くらいで三重県に戻ろうと思ったんだけど、結局戻りきれないで何十年もここにいてしまった」と照喜名さんは笑います。
養殖場は国の補助を受けて作られました。当時の沖縄は日本に復帰して10年ほどで、県外に比べて養殖業が全然発展していませんでした。いまの上皇さまが皇太子の頃に、当時の県漁連会長兼知念漁業組合長であった照喜名朝進と会話され、沖縄で困っていることはないかというときに養殖場の話が出たことによって、沖縄県内での養殖業の養成を進める流れになったそうです。その後照喜名朝進によって設立されたのが現在の板馬養殖センターです。
照喜名さんは2代目として会社を受け継ぎ、40年余りクルマエビなどの養殖を手掛けてきました。特別に実際の生簀を見せてもらいました。「プランクトンの中の状況を見ながら、海水の入れ変えをしている。餌であるプランクトンは決まっているわけではなく、プランクトンの種類によって、エビの飼育数によって入れ変えをしている」と、熱心に教えてくれました。また、養殖池には、2つの岩(三角岩「倉石岩」大小の岩)が見えます。岩は、養殖場を作る前からあり、地元の人たちのどうしてもこれだけは残してほしいという思いを受けて、現在もそのままにしているそうです。
―クルマエビについて
クルマエビは生き物なので、かなり環境に左右されます。特に最近は温暖化によって水温が上がっているほか、もともと沖縄にいないような海藻や魚などが出てきて、クルマエビの飼育に悪影響を与えることもあるそうです。飼育が1年サイクルのため、何かあった場合に取り返せるのは1年後にしか来ないという点でリスクが大きい商品だとも感じています。
板馬養殖センターでは、贈答用にクルマエビを生きたままお客様のところに届けるというやり方で好評を得ていました。ところが近年では、共働きなどで荷物を受け取れなかったり、貰ってもすぐに調理の時間を取れなかったりする状況がでてきました。さらに、宅急便の業者と何十年も連携して配送方法を築き上げてきたのに、ネットショップの台頭などによって宅急便の業者の業務が激増したことで、それまでのやり方が難しくなってしまったそうです。そこで一昨年からは、生きているエビを急速冷凍して真空パックに詰めたものをお歳暮用・贈答用として販売し始めています。クルマエビの自動販売機も始め、ユーチューバーやマスコミなどに取り上げられました。
―海ぶどうについて
板馬養殖センターでは、クルマエビと並行して海ぶどうも手掛けています。クルマエビは養殖を始めてから商品として並ぶまで半年もかかり、その間は収入のないまま、餌の代金や施設管理費などの億単位の経費を賄わなければなりません。以前はエビの価格が高かったため、そのようなやり方でも経営が成り立ちましたが、この40年ほどの間に物価高騰等の影響を受け、そういうわけにはいかなくなりました。そこで、クルマエビの出荷がない夏場に収入を得ることの出来る海ぶどうも手がけることにしました。
海ぶどうを始めたのは一昨年でしたが、台風の影響によって成果を上げることができず、本格的に取り組むのは今年からといいます。ほかにも、ヤギを飼って来客者が触れ合えるようにしたり、セグウェイに乗れる場を作ったりというチャレンジもしています。セグウェイは、従業員が養殖場内を移動する際にも使っているそうです。照喜名さんは、「決まったことをやるんじゃなくて、今現状どういったのが良いのかを考えながら、それに対応していく」と語っていました。
海ぶどうの消費先は、だいたい県内が8割、県外が2割ぐらいといいます。県外では、琉球料理の店で使われるほか、全国のコストコなどのスーパーでも流通しているそうです。
―働き方について
板馬養殖センターでは、働き方にも工夫をしています。生き物が相手なので、土日休みというわけにはいきません。ただし、一般の会社のように朝8時から夕方5時まで勤務という形ではなく、自分たちで働ける時間帯を選択してもらっています。「用事とかそういったのはわからないから、そういった休みとかも自分でスケジュールに入れ込んで休みを取る。必ずしも土曜日曜が休みじゃなくてその本人が、孫を迎えに行くとか遊びに行かないといけないとか、何か休みを入れないといけないときとかそれは任せている」というやり方によって、結果的に十分な数の働き手に来てもらっています。
―やりがい、今後の目標
仕事のやりがいについて照喜名さんは、「生き物というのは面白くて、やった結果が出てくるから何でもチャレンジする。もちろん、失敗することが多いんだけど、でも思ったらやる。それを心がけて頑張っていって、もたらすことのできた結果がやりがいにつながってる」と語ります。その上で目指すのが、儲かる会社を作ることです。儲かることで、若い人に集まってほしいといいます。クルマエビの作業では、池に潜ったり、餌をやったり、朝から収獲しなければならなかったりと大変なところもありますが、BBQをやったり、海ぶどうの摘み取りをしてここで食べたりなどの魅力を伝えることが今後の課題だと考えています。
今回の企業史聞き取り調査にて板馬養殖センターの歴史だけでなく、照喜名さんの考え方や南城市との繋がりなどについても教えて頂くことができました。板馬養殖センターは、社員の働き方が自由で柔軟なのはとても現代的で、働き手の生活に配慮しているのだと感じました。セグウェイを活用して高齢者も効率よく働ける工夫は面白く、まさに「現場に合わせた働き方改革」だと思います。海ぶどう養殖やクルマエビ自販機、ヤギの飼育などのエピソードからも、時代に合わせた柔軟な経営や工夫が感じられ、照喜名さん自身が固定観念に囚われず挑戦し続ける姿勢が印象的でした。「もっとみんながいろんな知恵を出し合えばもっと素晴らしい南城市にできる」という思いからは、地域のなかに企業があるという側面を見た気がしました。
最後になりましたが、本調査にあたり、インタビューを快くお引き受けいただいた「有限会社 板馬養殖センター」代表の照喜名朗様に厚く御礼申し上げます。
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