新成人に贈る言葉
二十歳のころ、まだファーム(二軍)にいたぼくは、昼間、観客のいないグランドでひたすら汗を流す毎日を送っていました。自分では"やれる"と思ってプロ野球の世界に飛び込んだのに、一年目も二年目も一軍での試合は三十試合くらい。そこで味わったのは絶望感だけでした。
「プロの選手は一軍の試合で活躍しなければだめだ」という現実の厳しさをいやというほど知らされたぼくは、成人式の日に一つの誓いをたてました。
「本物のプロ野球選手になろう。よしんばなれなくても本物になるるための練習だけはやろう」と。
この年の八月二十日、ぼくは一軍に上がることができました。しかし、もしこのシーズンに実績を残していなければ、恐らくぼくはクビになっていたことでしょう。その意味でも、ぼくのプロ野球人としてのスタートは、昭和四十年の入団の時ではなく、昭和四十二年の「成人の日」だったと思っています。
流された人生には何も残らない
昔の若者と比べて今の若者をどう思うかと尋ねられることがありますが、ぼくはあまり変わらないと思っています。ぼく自身、若いころはずいぶん無茶ばかりしていましたし、まわりの人の目には今でいう"新人類"のような存在に映っていたかもしれません。
ただ、一つだけ気にかかるのは、ぼくたちのころに比べて、最近の若者は少し幼いと感じてしまうときがあることです。社会が豊かになり、安易な生き方をしようとすればそれができる時代になったということもあるでしょう。また、進学率が高まり、それだけ社会に出る時期が遅くなったという背景もあります。
そんな豊かな時代に生きている皆さんに強く言いたいのは、人生の目的だけはできるだけ早い時期に見つけ出してほしい、ということです。自分は将来、何をやりたいのかそのためにはいま何をしなければならないのか―そう、う目的意識をしっかり持っていなければ、この豊かな社会の中ではどんどん流されてしまいます。流された人生の後には、何も残らないと思うのです。そんな人生だけは歩んでほしくありません。
君は何をするために生まれてきたのか
昨年ぼくは、二千百三十試合連続出場の世界記録を塗り替えることができました。これも「本物のプロ野球選手になろう」という目的意識を二十歳のときに持つことができたからだと信じています。ですから皆さんにも、できるだけ早い時期に「自分はこれをするためにこの地球に生まれてきたんだ」と、それくらい大きな自負を持って、本物の人生を目ざしてほしいと思います。
成人おめでとうございます(談)
衣笠祥雄(きぬがさ・さちお)さん略歴
昭和二十二年一月十八日生まれ。四十年に私立平安高校卒業後、広島カープに入団。五十一年盗塁王。五十五年日本新となる千二百四十七試合連続出場を達成。五十八年通算二千本安打達成。五十九年最優秀選手(MVP)賞を受賞。昭和六十二年六月十三日、アメリカのルー・ゲーリック(ヤンキース)の世界記録を超える二千百三十一試合連続出場を達成。六月二十二日国民栄誉賞を受賞。同シーズンをもって現役を引退。主な生涯記録には通算二千五百四十三安打、五百四本塁打、二千二百+五試合連続出場など。
| ダウンロード | https://drive.google.com/file/d/1qx1_SEdyAav-RFaa7kQN1hNNalB4NUCZ/view?usp=drive_link |
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| 大分類 | テキスト |
| 資料コード | 008460 |
| 内容コード | G000000943-0005 |
| 資料群 | 旧大里村広報 |
| 資料グループ | 広報おおざと 第111号 |
| ページ | 5 |
| 年代区分 | 1980年代 |
| キーワード | 役所・役場行政広報 |
| 場所 | 大里 |
| 発行年月日 | 1988/01/01 |
| 公開日 | ー |