わたしたちのまち 瀬底あけみ
みなさんは、佐敷の干潟へ行ったことがあるでしょうか。このすぐ後ろの護岸からみると、泥だらけで、いろんなごみがちらかっていて、とても美しいなどとは言えない状態です。しかもカンカン照りの昼日中に干潟に降りるなんて、考えるだけでもゾッとします。
最初、干潟に行こうと誘われたときは、正直雨でも降らないかと思ったくらいでした。
不幸にもその日はよく晴れて、絶好の観察日和となりました。私は日焼け止めクリームを塗りたくって恐る恐る階段を降りて行きました。長靴を履いて行ったのですが、ズボッとはまった靴はなかなか抜けず、よっこらしょ、よっこらしょと、一歩一歩歩くのがやっと。
それでも、人の気配を感じてサーっと穴に逃げ込むシオマネキやトントンミー、アーマンたちのユーモラスな姿に、なんだかウキウキと童心に返った気分になってきました。
しゃがんでみると、チョロチョロと水が流れる音が涼しく聞こえ、日の光がキラキラと揺らめき、毎日の慌ただしさ、イライラ、仕事のこと、やり残してきた掃除、洗濯すべてを忘れて、とてもゆったりした気持ちになっていました。兼久の島グヮーの周りを歩くと、さらさら、さらさらと水が流れてきます。湧き水でしょうか、と隣りにいた人に聞くと、干満の差で取り残された海水が流れているとのこと。その音の気持ちよさ。水には、人の心をいやす力があるようです。へー、こんな近くに、こんな別天地があったんだ。新鮮な驚きでした。
子どもたちは遊びの天才です。しゃがみ込んでシャベルで泥をすくう子もいれば、貝や力二取りに夢中になる子。スケートのように泥の上を滑ってみたり、トントンミーを追いかけたり。それぞれ好きなように干潟を楽しんでいます。あーしなさい、こーしなさいではなく、自分のしたいように全身で自然を感じている姿に、今日ばかりは、いくら洗濯物がでようが許しちゃおうと思いました。
ところで、干潟の生き物たちが泥の中に空気を運び、有機物を分解し、水をきれいにしていることをご存じですか。栄養がいっぱいあって大きな魚がいない干潟は、稚魚や幼魚が育つ海のゆりかごの役目もしています。えさが豊富な干潟には、渡り鳥も羽を休めに来て長旅の疲れをいやしていきます。遠くはシベリアや中国大陸からも飛んでくるそうです。
このたくさんの生き物がいる佐敷干潟を埋め立てる計画が、現在着々と進んでいます。
一応トントンミーを守るために、かなりシュガーホールの裏側を残したり、工事の時期を制限したりしているそうですが、その程度で本当にトントンミーが守れるのしょうか。また、佐敷の干潟は、トントンミーだけでなく、日本でもここにしかいないという貝や、シオマネキの宝庫です。兼久の島グヮーの周りにも、貴重な生物がたくさんいます。冨祖崎から伸びる砂州が、その形を変え消滅するかもしれないと言います。潮の流れは人間の予想を越えたつながりを持っています。これ以上海に手を加えたら、絶対に佐敷の干潟は死んでしまいます。こんなに豊かで貴重な佐敷の財産を、みすみす手放していいものでしょうか。
さて、最近いやな事件が毎日のように報道されて、もうニュースを見るのも怖くなります。なんでこんな世の中になってしまったのでしょう。ただ嘆いていても悲劇は無くなりません。私は、社会環境の変化が一番大きな原因ではないかと考えます。コンクリートの建物、パソコンから携帯電話まで電子機器に囲まれ、アスファルトで固められた道路、木も、花も、草も、すべて管理された公園。空気さえ、エアコンでコントロールされ、夏涼しく、冬暖かく、自然がどこにも感じられない生活の中で、人間の中の何かが壊れ始めているのではないでしょうか。
人間も自然の一部です。自然を失えば、人間性を失います。ギスギスした人間関係の中で、イライラカッカと相手を傷つけても平気になっていきます。感覚がまひしていくのです。大人から子どもまで、東京であろうと沖縄であろうと、事態は驚く早さで進んでいます。今こそ、自然と触れ合うことで、人間的な感覚を甦らせなければなりません。貴重な干潟こそ、自然と触れ合い人間性を取り戻す最適な場所です。山にはハブがいますが、干潟にはハブもくらげも来れません。ごみを取り除き、排水をキレイにして、誰でも泥んこになって自然を楽しむ場所にしたいものです。
私は佐敷をよく知らすに、佐敷の人と結婚してここに住むことになりました。那覇に通勤していた頃は、大里の山を越えて佐敷の町が目の前に開けてくると、アー帰ってきたな、と実感し、しばらく車を止めて海を眺めることもありました。屏風のような山並み、湖のように静かな海、遠くから眺めても、干潟に降りて遊んでも、まさに佐敷は、人間的に生きるのに最高の環境です。ここで子どもたちと一緒に育つことができる幸せにつくづく感謝しています。
みなさん、今ある自然をどうやって守ったらいいか、みんなで考えていきましょう。無くしてから取り返そうとしてももう手遅れです。素人は素人なりの、主婦は主婦なりの直感で、私たちの自然を守る方法を考えて行きましょう。誰かに任せておくことはできません。私たちが町の主人公です。
ダウンロード | https://docs.google.com/uc?export=download&id=1SjIyRTHGO-AmzQ-Zq-e9BUjqc0YTH3St |
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大分類 | テキスト |
資料コード | 008454 |
内容コード | G000000771-0007 |
資料群 | 旧佐敷町(佐敷村)広報 |
資料グループ | 広報さしき 第295号(2002年2月) |
ページ | 6 |
年代区分 | 2000年代 |
キーワード | 広報 |
場所 | 佐敷 |
発行年月日 | 2002/02/10 |
公開日 | 2023/12/15 |