なんじょうデジタルアーカイブ Nanjo Digital Archives

少年の主張最優秀賞

父の姿に学ぶ
佐敷中3年 瀬底麗

「タンタンタンタンタンタンタン…。」これは、私の父が情熱を注いでいる獅子舞に使われる曲の1つです。父は、獅子舞を保存し、継承していくために獅子ケーラシ保存会という会をつくり、活動しています。
獅子舞は、あまり日の当たらない祭祀芸能のせいか、関心を持つ人が少なく、同じ琉球芸能の中でも、琉舞やエイサー等とは違い、ほとんど調査されてはいません。
しかし、父は人と同じ事をするのが嫌いな性分であり、もともと、獅子頭を見る事が好きだという理由から、獅子舞の保存に力を入れはじめたのです。
沖縄には約200頭、全国には約8000頭の獅子舞があります。アジアにはインドをはじめ中国、ベトナム、インドネシア、韓国、とにかく獅子文化がアジアには広まっているのです。獅子舞を沖縄では獅子加那志と呼び、青森では番楽(バンラク)と呼ばれ、韓国ではプジョンシシと呼ばれ、鳥取やベトナムでは麒麟(キリン)獅子と呼ばれています。
獅子舞の中でも地域によって様々な舞手や毛の色、それに何といっても、あの豊かな表情があります。父はその獅子舞の豊かな表情にとりつかれ、県内の獅子頭全ての写真を10年あまりかけて撮り続けました。その写真は2年にわたって沖縄タイムス紙上で連載されていました。
また、獅子舞というと2人の舞手が中に入って舞うのがポピュラーではありますが、北部のある3地域では、5年に1度、繰り獅子という、糸で操ることで舞う子犬くらいの大きさをした獅子舞もあります。
6年程前の事、津波古の獅子舞が具志川市主催の獅子舞フェスティバルに出場する事になり、親戚を含め家族全員でそれを見に行きました。闘牛場で行われたそのフェステイバルは、外人を含め、満余の観客の熱気であふれていました。
他の団体の場合、ワクヤーも獅子舞も成人の方々が演じていましたが、私たち、津波古の獅子舞は高校生が舞い、ワクヤーも小学生で演じられていましたし、舞台だけでなく、闘牛場全体を舞台として跳ねまわっていたので、他の団体とは違う温かくて一番大きな拍手を受けました。私は見ている側ではありましたが、幼いながらも、地元団体がどこの団体よりも一番輝いていた、と強く誇りを抱き、喜びとうれしさで感動してしまいました。
その翌日、ワクヤー役を演じていた私のいとこは、地元新聞紙上で、『天才ワグヤー』として大きく取り上げられました。獅子舞に誇りを抱き始めていた私にとって、それは頼もしい限リでした。こうして、家族ぐるみで獅子舞に携わっている私たちですが、聞いた話によりますと、かつて、曾祖父や祖父も獅子舞の名手だったといいます。私たち家族は、その情熱をしっかりと受け継いでいるという訳です。
また、昨年父は、大阪国立文楽劇場で獅子加那志大競演を開催し、事務局長としてそれを中心になって成功させました。この事によって、沖縄の獅子が初めて県外に出る事ができたのです。さらに今年の4月には、鳥取県で全国獅子シンポジウムにも沖縄代表のパネラーとして、父は参加しました。今では、獅子舞に関する問い合わせが来る程です。
しかし、獅子舞を取り巻く環境が整っているというわけではありません。という事は、自らが動く必要があります。そのため、現在、祖父の残していった土地を利用して、ウービキ工房を建設しました。ウービキ工房とは、獅子舞の毛を作るのに必要な芭蕉の繊維をつくるための工房です。
もう父は、獅子舞の第一人者と言っても決して過言ではないと思います。少なくとも、私は強くそれを感じます。私はそんな父の後ろ姿を見て、「その獅子舞に対する情熱はどこから来るのであろう。」と、つくづく感じます。思えば父は、いつか私に、「演じることによって継承される。」という言葉を教えてくれました。さらに私が幼い頃には、獅子舞だけに限らず、祭祀芸能が行われると、夜遅くであろうと、とにかく私の手を引いて、脈々と受け継がれている祭祀芸能の数々を身をもって教えてくれたのです。
私は、父に学びました。『温故知新』という言葉を。温故知新とは、『古いものをしっかり見つめる事から、新しいものが生まれる』という様な意味を持っています。少し大げさだと思いますが、私はそれを、父のためにある様な言葉だと思います。
今日まで、人々の心や体で脈々と受け継がれてきた伝統芸能。特に、日の当たらない祭祀芸能の数々は、その命の灯火を吹き消すも、灯し続けるのも簡単な事です。
新しいものを追求する時代だからこそ、温故知新の精神で、祭祀芸能の命を灯し続ける事が必要であり、大切なのではないでしょうか。
「タンタンタンタンタンタンタン…。」今、未来の沖縄の姿が見えた。人々の温故知新の精神によって。

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大分類 テキスト
資料コード 008453
内容コード G000000750-0009
資料群 旧佐敷町(佐敷村)広報
資料グループ 広報さしき 第278号(2000年9月)
ページ 5
年代区分 2000年代
キーワード 広報
場所 佐敷
発行年月日 2000/09/10
公開日 2023/12/14