文化協会俳句教室10月例会より。山城青尚選
菊酒や李白の像の頬ゆるむ与那嶺末子
(評)重陽の節句に菊の花びらを酒杯に浮かべて飲むと、災厄をはらうといわれる。酒好きな盛唐(中国)の大詩人、李白の頬ぺたがゆるむのも無理はない。
トゥング田の跡や秋蝶のひとつがい山城百合子
(評)苛酷な人頭税にあえいでいた与那国島の宇良部岳の裾にある人舛田(トゥング田)は、
人減しのため不意打の招集に遅れ、田の舛からはみ出た人々を死に追いやった場所である。
これらの犠牲になった人霊が、つがいになってトゥング田の上を舞っていた。
「基地撤去」にぎりこぶしを照らす月垣花和
(評)米軍基地の重圧にあえいでいる基地周辺での反基地闘争に参加した。虚空をついた多
数の拳が、中秋の月に鮮明に映し出されていた。
曼珠沙華のひと株ゆれる亀甲墓安里洋子
(評)彼岸花が住宅の庭などで、辺りを真紅に彩っているさまは何とも美しい。しかし幽霊花どもいわれているとおり、亀甲墓の庭で揺れているさまは何となく妖気が漂っている。
扉なき島の龕 小屋秋深む与那嶺末子
(評)遺体を納めた棺箱を墓まで運ぶ朱塗りの輿をガンという。火葬になった現在では使用されずに、扉のこわれた小屋に置き去りにされている。何となくわびしい秋の深まりを感じさせる。
※選者句
青蜜柑高校生が煙草吸ふ