九州は福岡県の西南部。広々とした田園風景の町並の八女(やめ)市に旅をしました。人口四万人弱。お茶と電照菊などの花卉類、あるいは市内に多くみかける仏壇店のように、仏具・石材などが主産業のようです。緑が多く、遠景に山並をいただくところなど、フッとこの佐敷を思わせるところがあります。心安らぐ懐しの町の風情。
この八女市に十年前、八女ジュニア合唱団が誕生しました。
地域の小中学生を中心とし、指導者も地域の音楽家や教師。そして組織運営をしっかりと支援しているのもその父母を中心とした地域の大人たち。ひとくちに10年といっても、着々と合唱団としての力量を貯え、そして地域全体の大人からも子どもからも愛されるように成長したその時の流れは、とても貴重なもののように思えます。物を作っているのではない、音楽をとおして人の心を育て、感受性を育み、なおかつ地域のコミユニティー意識をみごとに醸成する働きまでも成し遂げてきたのですから。
作曲家としての私が関わりを持ったのは今から7年前。郷土の英雄でもある古代の豪族「磐井の王」に因む作曲依頼を受けてからです。「磐井の譜」と題されたこの合唱曲は、やがて私の手を離れ、今では八女ジュニア合唱団の、いや八女市の多くの市民のシンボル的愛唱曲となっているようなのです。指導をされる鍋田さんは、かつては八女市内の小学校の先生、陰で支えられる後援会長は精神科医の三浦ご夫妻。そして時折り訪ねて刺激役となる私や、多くの音楽家。この関係は地域における理想的な市民主体の文化活動を示唆しているように私には思えます。
「歌」の真価は「真実の心」の表明です。ワッターまちのワッターうたのワッター歌一座なのですから、送り手も受け手も飾ることなく、真実の肝心(チムグクル)が交いあうわけですよね。
さて、佐敷にもいよいよ子どもの、歌って、踊って、演技できるワラビ集団、ジュニア・コーラス誕生の準備がすすんでいます。
いつか近い将来、キビ畑のシュガーホールで、八女の子どもと佐敷の子どもが、心通わせて歌声をこだまさせる日がくるのを、今心待ちにしています。
ちょっと、気が早すぎるかな。(琉球大学教授)