料理と音楽づくりには共通するところが多いものです。
どんな料理もまずは材料の新鮮さが勝負ですね。シチューを作るとき、私はまずもって、新鮮なジャガイモ、玉ネギ、ニンジンを探します。肉は沖縄では新しいものが手に入りやすいのですが、根野菜はそうはいきません。しかもシチューづくりの三大秘訣は、一に材料二に下味仕込み三に気長な煮込みとスパイス選びと、この20年間私は信仰のように思いこんでやってきましたから、野菜選びには異常な執念を燃やしとにかく足を使って探し求めます。行きつくところは味の世界なのですが、そこへ至るまでの過程に執念深く手間ひまをかけるのです。
作曲もまた、その素材が勝負どころです。どんなに大掛かりな音楽作品でも、その中心素材はジグゾーパズルの破片のように素朴なものです。しかし、その破片一個一個の形、つまり基本の楽想が最終的には音楽全体を支配し性格を決定づけます。
素朴とはいえ、決してなおざりにできないのです。作曲の素材はもちろんスーパーで探すことはできません。自分の内なる耳をたよって探すのですが、私の場合しばしば自然のなかを歩きまわったり、旅の途中に突然発見したりです。ここでも足が助けてくれるのです。
作品の全体像が音となって聞こえてくるまでは、できるだけペンをとらないようにします。
断片的な素材をコツコツ組み合わせる作業をすると、どうしても音楽はひとつの生命体として鳴り響かない。いろいろな楽想がごく自然にとけあって、やがて音楽の形をとり始めるまでじっくり待つのです。気長な煮込みを待つのによく似ています。
料理と音楽が決定的に違うこと。味覚と聴覚のちがいもありますが、料理は多少まずくても供すると喜んでもらえる確率が音楽より遙かに高いことです。
発表した音楽の新作が、ちっとも観客の喜びを引き出せなかったその翌日に、我が手製のシチューに嬉々として舌つづみをうつ友入をみていると、ほんとうに複雑な心境になります。
さて、11月には文字どおり新鮮な音楽家とその卵たちの音楽づくりがシュガーホールであります。まず23日(水)の公休日、県内でピアノを学ぶ小学生から高校生まで総勢80名の卵たちが雛をめざしてコンクール形式のオーディション演奏会に挑戦します。全県からこの佐敷にピアノワラバーとその父兄がやってくるのです。つづいて27日(日)には沖縄県芸術祭の洋楽部門「二台のピアノのためのコンサート」があります。
3年前に、音楽の都ウイーンで出会って結ばれた沖縄出身の平良大司朗さん、そして小学生から自作自演のピアニストとして、国際的な活躍をした東京出身の平良久美さんです。2人とも未だ20代、沖縄での実質的なデビューコンサートとなります。
どちらも入場無料のコンサートです。ぜひこの機会にシュガーホールヘ足を運び、若い才能の気迫をいっしょに呼吸してあげてください。 (琉球大学教授)