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山城町長(全国町村会常任理事)が「高齢懇」で意見

保健・福祉には財源の安定的確保が大前提

山城全国町村会常任理事(沖縄県佐敷町長)は7月7日、厚生省老人保健福祉局長の諮問機関である「高齢者対策の基本方向に関する懇談会」に委員として出席、町村の実情と全国町村会の考え方の理解を求めて、意見を述べた。
この懇談会は、保健・医療・福祉各分野の相互の関連・連携・整合を念頭において、今後の老人保健福祉施策のあり方について、統合的に検討するため本年4月設置されたものである。

山城会長の発言要旨
他の委員の方々が既に提言されていることとの重複を避け、社会福祉の第1線にある町村長の立場から若干意見を述べさせていただく。

老人保健福祉計画策定現在、町村では老人保健福祉計画を策定中であり、私の町でも福祉行政にたずさわる各課より人を出して策定チームを編成している。その陣容は、住民課5人、国保年金課2人、福祉課4人、それに保健婦1人からなり、各課の課長は、必ずこの会議に出席することにしている。このような陣容で、計画策定作業に日夜取り組んでいる。公務を行ないながらの兼務体制なので、時間のやりくりが大変で、策定作業には相当の期間を要している。町村では、私のところのような人員を計画策定に充てることができず、コンサルタント業者に依頼していることがあるやに聞いている。これは、保健福祉関係の業務を数名で行なっている町村では無理からぬことで、老人保健福祉計画を業者に依頼することが悪いということではなく、その場合でも、市町村の担当部局が、綿密な打合わせを行ないながら計画を策定するという態度でのぞめば良いかと考える。また計画策定の後でも、それが要介護老人や介護者からのニーズとの不都合を生じた場合には、その時点で、修正をしながら実行に移して行くという柔軟な姿勢が、重要であると思う。
国は、一般に考えられている以上に町村長自身が、老人福祉行政に直接に携わざるをえないことにも配慮し、各町村の計画策定を見守っていただきたい。
平成2年度より、「高齢者保健福祉推進10カ年戦略(ゴールドプラン)」が始まり、特別養護老人ホーム等の整備計画の策定がなされ、政府予算編成でもゴールドプラン関係は、最初の段階で数字が入るようになってきたことは大変喜ばしいことであるが、ゴールドプラン全体の財源が見えにくいことに対し、町村長は不安を覚えている。
施設にせよ、介護サービスにせよ、はじめれば後戻りできない性質のものであるだけに、財源内容、見直しを考えると、積極的に取り組めない町村があることは事実である。 昨年末の国の予算編成に際して、国の一般会計に比べて地方財政、特に、地方交付税には余裕があるという議論と、保育所行政は既に市町村に定着したとの理由から、「健やかに子どもを生み育てる」という国の大前提があるにも拘らず、保母の人件費を、地方に負担させようという動きがあった。これと同じ考え方で特別養護老人ホーム等の維持運営費等や、介護サービスに対する補助金等が圧縮、廃止されるのではないかなど、老人福祉対策費等に対する不安がつきまとう。

措置費
高齢化率が20パーセントを超えようとする町村では、財政力指数が0.5を超えるところは極めてまれであり、町村が福祉事業を推進するには、財源の安定的確保が大前提となる。
施設ができた後、特別養護老人ホーム等を運営していくうえの主な財源は、言うまでもなく、措置費である。施設は24時間、365日稼働し、そこに勤務する職員は昼夜を問わず懸命に働いている。そのような中で、週休2日制の導入が、各町村で順次行なわれてきており、施設で働く職員をそのままの状況にしておくことには問題が生じている。
マンパワー確保の観点からも、その処遇問題は大切である。しかし、現在の措置費は、週42時間労働で計算されており、実態とずれが生じてきておるところもでてきている。これは、20人の職員がいる施設では、42時間から40時間に転換することは、40時間分の穴があくということがあるので、これを非常勤の職員で賄うのか、正職員を採用するのかの方針を定め、速やかに40時間勤務で職員費が賄えるように措置すべきである。
身近な例をあげたが、別の視点からいうと、健康保険の医療点数は、医療従事者、保険者等が審議会で議論しながら決定されているのに対し、措置費は大蔵省、厚生省の予算折衝で決定されるのであろう。措置費の不足分は、施設主の負担となり経営が成り立たないことになる。サービスの量ばかりでなく、質的水準等が今後の課題になってきている昨今、措置費の内、人件費であれば、給与格付、単価を、施設運営に対する費用についてもその措置状況が適切であるのかどうかを、毎年度とはいわないが、3年から5年に1度くらいは審議会等公の場で、ガラスばりの中で議論がつくせるような体制づくりが必要であると思う。

公的援助の公平化

家族介護力は核家族化、過疎化の進行、女性の社会進出などにより、急速に低下してきている。このような状況のもとでは、要介護者を家族の費用負担と肉体労働負担の少ない病院、施設へ入れようとすることは、当然である。要介護老人を在宅福祉で抱える家庭と、病院、施設利用の家庭との間には大きな負担の差がある。これを早急に均衡化しなければ在宅福祉を進めていく上で大きなネックとなる。ゴールドプランの進行に伴い、施設が整備されれば、ますます在宅福祉は停滞することも考えられる。在宅福祉へのより強い誘導策が必要ではないだろうか。
地方の町村では、伝統的な家族概念がまだ根強く残っているところがあり、自分の親は自分達の手で介護したいと思っている人々がいる。そのような人々のためにも、ホームヘルパーの派遣等だけでなく、在宅で老親の介護をする家族介護者に対する児童手当制度と同じような手当制度を創設してはどうかと思うのである。これにより、パートにでていた主婦らを家族介護力に転換することにつながると考える。
また、所得税の控除項目にある、老人扶養控除の対象を拡大し、控除額を大幅に増額してはいかがか。
子ども達が都会へ出ていって、高齢者夫婦のみの世帯や、高齢者単身世帯となっている世帯についても、地元市町村が公的サービスを提供している。しかし、これは先ほど申し上げた、伝統的な家族概念が残っている地方では、親だけを残し、「去っていった子ども達」に対する地元住民の感情は複雑である。このような親を残して去って行った子ども世帯が納める所得税、住民税の一部を親のいる市町村に振替えといった措置がとれないか、制度創設を考えるべきだと思う次第である。これは、単に財源移転の効果を持つばかりでなく、年老いた親の介護に対する関心を持たせることにもなると思う。
福祉目的税については、既に各委員が述べているので省略するが、本格的福祉目的税創設までのつなぎ措置として考えてほしい制度である。

年金
年金問題には支給開始年齢、一元化、給付水準といろいろあるが、制度の空洞化対策を緊急に確立すべきである。国民年金の平成4年度の検認率は80パーセントと聞いている。検認率が80パーセントというのは10人に2人は払っていないということで、この人達が将来生活保護を受けるようなことにでもなれば、公費負担も大変なことになると思うのである。国民年金の検認率アップは今後、月額10,500円の年金掛金が更にアップになった場合、ますます厳しくなると思うのである。各々の町村の徴収努力の継続は当然だが、それもそろそろ限界にきている、国民年金制度の維持、公平性の確保の面からも、年金の加入義務、納入の強制などを社会保険方式の体系の下であっても制度的にはっきり確立させてもよい時期ではないだろうか.未納者、未加入者に対して何らかの強制手段が講じられるよう、制度的改正を整えることが必要な時期になってきたと思っている。
例えば、低所得者層では国民年金の保険料納付者よりも、民間の個人年金生命保険への加入者数のほうが多く、そのほうが有利と考えているという話しもあるやに聞いている。国民年金を含む社会保険について、所得税法の生命保険料控除の適用を受けるには、国民年金の保険料納付を要件とするとか、日常生活上、最も必要な運転免許証の交付、更新に際して、国民年金、国民健康保険料の納付済み条件とか、強力な対応が必要である。
社会保険庁では、既に検討に入ったときいているが、年金者番号等の問題がある。いずれかの年金に加入した時に番号を付し、その番号を当人の生涯の年金番号にすることは年金支給管理の面から有効な方法と思うが、未加入者を捜し出す点については、どの程度の配慮がなされているのだろうか。
税金、医療、保険、住民の保健管理にも使えるよう年金の側面のみからの検討だけではなく、今後は、より広い議論を行なう必要があると思われる。

国保との関係
特別養護老人ホーム等の入所者の費用は、最後まで入所者の自治体が費用負担することになっているが、国保は、他市町村からの転入者にかかる負担は、転入先の自治体が負うことになっている。
ある市町村が特別養護老人ホームの施設を設置し、他市町村からの入所者が、住民登録を当該市町村に移し、その入所者が病気になれば、その医療費は、特別養護老人ホームを設置した市町村が支払うことになるのである。
老人保険制度があるとはいえ、老人加入率20パーセントを超える市町村では、全額市町村の国保が支払うことになる。これについては、調整交付金で一部考慮されているとはいえ、制度的平衡がはかられていない一例である。
公営、民営の区分なく、特別養護老人ホーム、ケアー付住宅等ができるようになったが、これが地元市町村の国保財政の赤字を増大させ、一般会計からの繰出しが多くなるという状態を引きおこすことのないよう考えていくことが必要と思う。
町村の国保財政は、非常に厳しく他の健康保険掛金と比べても、保険料の納付額に大きな格差がある。それは、国保加入者が、農業従事者、自営業者、無職等の職種で構成されており、高齢者が多いことに主因があることは言うまでもない。仄聞するところによれば、被保険者数が少ない市町村(保険者)が多数あり、保険としてのスケール・メリットが働いていない。被保険者数の少ない町村は、国保事業だけでも合併させようとの動きがあるやに聞いているが、先に述べたとおり国保加入者の多くが老人、無職者等の低所得者が多いことの実態を考えると、赤字の保険者をいくら集めても、保険事業としてのスケール・メリットは働かないことは明らかである。
65歳以上の老人は、現行の医療保険とは別の全国的制度、枠組を考えるべきではないだろう。また、低所得者層に対しても、国保加入の被保険者のみに、共済、相互扶助の役割を持たせることは正しいのだろうか。生活保護制度の中の医療扶助制度をも含めて、低所得者層の医療保険制度のあり方を再検討し、これを全国的に扱うように改めるべきものである。 国保に対する都道府県、市町村の公費負担は、老人のためのものか、低所得者のためのものかの性格があいまいで、このまま継続することに問題があり、また、調整交付金制度の調整機能はもう限界にきている。老人問題を中心に、国保制度の抜本的改正をし、健康保険制度の一元化医療保険の再編成を議論すべき時期かと思われる。
最後に、沖縄県独自の問題であろが、アメリカ軍統制下より本土復帰の際の厚生年金格差について善処方お願いしたい。
以上、各委員の方々との重複を避け、全国町村会の意見を述べさせていただいた。各方面でのご議論をいただき、必要な制度改正等を早急に図られるようお願いしたい。

本記事は「町村週報」第2024号よりの転載です。

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大分類 テキスト
資料コード 008446
内容コード G000000636-0019
資料群 旧佐敷町(佐敷村)広報
資料グループ 広報さしき 第193号(1993年8月)
ページ 10-13
年代区分 1990年代
キーワード 広報
場所 佐敷
発行年月日 1993/08/10
公開日 2023/11/30