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出会い・交流・連帯・創造の場に 佐敷町文化センター(仮称)の建設について

答申
佐敷町庁舎等建設委員会

かつての「ムラ」の活気は、人々が相い集い、語り合い、楽しみ、励まし合ったひとつの「場」の存在によるものが大きかった。その「場」は、人々の文化の発信地でもあり、地域社会の連帯の拠点でもあった。いま、私たちに問われるものは―。

一、基本的考え方
かつて佐敷の各「むら」には、御嶽や殿や土帝君等の拝所を中心とするナー(広場)がありました。人々は、おりにふれここに集い、豊作のときには感謝の祈りを、干ばつのときには雨乞いの祈りを捧げました。あるときは、ムラアシビの舞台ともなり、「むら」の長老たちは、重要事情を審議し、その裁定をむら人を集めて伝えました。このナーは「むら」の人々の多種多様な生活目的達成の場として活用され、また、心のよりどころとして存在し、祭りや芸能など数々の文化を生み出していったのです。
一方、荒廃した戦後の復興の目標は「ティーダ(太陽)やアガリ(東)カラ、アカガラチ、ムラヌ栄エヤムラヤー(公民館)カラ」というものでありました。人々は戦後、焼き払われた瓦礫と荒廃のなかに、生きるために苦闘しつつ、自分たちの自治と共同の部落づくりに取り組む必要がありました。いわゆる、「むらおこし」です。人々は各戸より資材を持ち寄り、草茅を刈り集めて木造のムラヤーをつくりました。このムラヤーを拠点に、部落の自治活動、生産と労働、青年・婦人活動、祭りや芸能などが復活され蓄積されていったのです。
私たちが、いま新しく町民会館や中央公民館の建設を進めようとするとき、この「ナー」や「ムラヤー」につながる精神を現代に生かし、それをさらに継承、発展させることが大事なのではないでしょうか。町民会館の原点は、佐敷町全域の「ナー」として、まさに町民の心のよりどころ--出会い、交流、連帯、創造の場--にあり、中央公民館の原点は、佐敷町全域の「ムラヤー」として、町民の社会的活動・文化的活動・教育的活動の拠点としてあると考えます。
さらに大切なことは、佐敷町内に存在する有形、無形の歴史的遺産と現代が生みだした多くの文化を大切にしながら、未来のための文化づくりにも努めようとする視点です。建設委員会は、町民会館と中央公民館の複合施設として「佐敷町文化センター」(仮称)を建設すべきであるとの結論を得ましたが、この文化センターは、まさしく、佐敷町の将来の町づくりの核となるべき位置づけが大切だと考えます。

二、町民会館・中央公民館の今日的課題
戦後の経済発展、高度成長を経て人々は、ある程度の物質的豊かさを得ました。そして今、高齢化、高学歴化、情報化、余暇時間の増大という潮流とも相まって、精神的な豊かさやゆとり、教養、生きがい、自発的に何かを指向することなど、いわゆる文化的な欲求にもめざめだしています。
それは、もはや一部の階層が求めるものではなく、あまねく各階層、世代へと広がり、地域から県内、国内、さらに国際的なものへとその視野も広げられてきています。
こうしたなかで、文化的要求の内容は、ますます多様化をきわめ、量的なものから貿的なものへと高まってきています。
文化施設、社会教育施設の今日的課題と展望は、さまざまな社会的、経済的諸条件との調整の上に立って、これらの要求にいかに的確に対応し、新しい時代の方向に沿って展開させるかにあると考えます。
多種多様な要求に対応するために、特に町民会館や文化会館等の公共ホールにおいては、多目的な性格が要求されます。
しかし、こうした国内、県内の多目的ホールが設立理念、施設そのものの問題、ホール自体の企画力、スタッフの問題などさまざまな指摘がなされ、画一的で中身不在のホールに陥っていることが多いこともまた事実です。
公民館も、施設の近代化やデラックス化が先行し、かつて「ムラヤー」が担っていた地城づくりの拠点としての機能は、残念ながら薄れつつあります。「施設は豊かであるが、活動そのものは貧しい」と指摘する向きもあります。
佐敷町の町民会館のホールは、多目的ではあっても無性格ではない、「伝統の町佐敷と未来に開かれた町佐敷」をつなげる個性のあるホールをめざすべきであると考えます。
町民会館の個性とは、
 ①佐敷・沖縄の伝統文化を支え豊かにする役割を明確にする。
 ②日本、世界の音楽・芸能を射程に入れる。
 ③学校教育と連動した音楽・芸能活動の展開を図る。
「ムラヤー」の機能が途絶えかけているのであれば、ほかならぬ中央公民館こそが、地区公民館とネットワークを図りつつ、再生していく砦にならなければならないと考えます。
中央公民館の個性とは、①公民館の事業(学級講座を含む)編成における地域特性の具体化。

三、複合施設としての佐敷町文化センター(仮称)
佐敷町の町民会館と中央公民館は、複合施設として位置づけ、「佐敷町文化センター」(仮称)として建設されることが、最も得策だと考えます。
多様な要求を反映して公共施設が、他の施設と重層化したり、複合化したりする傾向が多くなってきています。町民会館と中央公民館も、施設相互の相乗作用を考え、単なる施設の集合としてではなく、関連性のある一つの有機的な複合施設として、互いに補い合ってより豊かな内容へと高めることが肝要です。

四、佐敷町文化センター(仮称)の規模と内容について
(1)佐敷町文化センター(仮称)の位置について
   佐敷町の中央部(佐敷町字佐敷307番地)が望ましい。
(2)佐敷町文化センター(仮称)の規模について
   延床面積は3,800平方メートルを目処とする。
(3)佐敷町文化センター(仮称)の内容について
 ①町民会館的機能
 ア、性格
 ・公共ホールとして多様な使われ方に対応できる多目的ホールとする。
 ・ホールを使用する芸術文化活動には、演劇系(オペラ、バレーを含む広義の意味)の
活動と音楽系の活動がある。
 ・このホールの主要用途を演劇系に位置づける。ただし、音楽系、特に室内楽や中規模音楽会、ミュージカル、ポピュラー、伝統芸能等の用途のための設備も付加する。
 イ、客席
 ・500席から600席を目処とする。
 ・ワンスロープ固定席とする。
 ・客席空間の残響時間への配慮は特に重要である。
 ・身障者席、親子観覧席も設置すること。
 ウ、舞台
 ・プロセニアムステージとする。
 ・主要用途を演劇系として設定するが、公共ホールであることの性格上、他の用途にも
使える多目的ホールとしての工夫を十分に行う。
 ・演じる側の立場に立って舞台面を広く取り、楽屋、リハーサル室などへの細心の配慮
が望まれる。
 ・照明、音響、舞台機構ともに基本的な性能を十分備えたものであること。
 ②中央公民館的機能
 ア、所要室
 ・集会室、視聴覚室、工作実習室、図書室、展示室など、中央公民館に必要な各室を確
保する。
 ・特に視聴覚室は、情報化、ハイテク時代への対応が十分にできるように、スペース、
設備の充実には十分配慮されたい。
 ・調理実習室は、農村婦人の家との関連で設けないこととする。
 ・婦人会、青年会、体育協会、文化協会などの社会教育団体の活動のための団体室、資
料室も必要である。
 ・図書室、展示室は、将来の町立図書館、町立博物館との整合性をもたせること。
(4)文化の広場の整備
佐敷町文化センター(仮称)は、前途したように町民の心のよりどころ、諸活動の拠点として設置されることが望まれます。
町民が気軽に立ち寄ることができ憩える場として、建物のみならず道路及び周辺の環境整備についても配慮し、将来計画との整合性が必要です。
(5)駐車場の整備
佐敷町文化センター(仮称)の位置が、町の中央部という面から考えると、幼児から高齢者におよぶ利用者は、徒歩よりもむしろ、自転車や自動車による来館が主になると考えられます。しかも、その利用の範囲を町域だけでなく南部地域全体へ広げることになると、その数はかなり多いことが予想されます。
佐敷町文化センター(仮称)の活用をそこなわないような駐車スペースの確保が必要です。

五、意見
以上、諮間事項を審議するなかで、特に以下の事項についても重要であると判断したので要望することにします。
 (1)基本設計、実施設計にあたっては、利用、使用者の立場から実演家、音楽関係、社会教育関係、舞台演出関係の各専門家から、また、技術関系では音響・照明、舞台機構、舞台美術等の各専門家から意見を聴取すること。
 (2)建設にあたっては、町のシンボルとして歴史に残るような、より高度な施設にすること。
 (3)施設の運営等について
 ・例えば「佐敷町文化センター運営審議会」等を設置して、施設のより有効な活用を図ること。
 ・自主企画事業に、積極的に取り組むこと。
 (4)省エネルギーと水の有効利用についても配慮すること。
 (5)設計に当たっては、佐敷町文化センター(仮称)が、高度にしてかつ多機能複合的な施設であることに鑑み、相応の能力、十分な識見と経験を有する設計者の参画が望まれる。そのため、設計の方法は、建築設計競技が望ましい。
(1991年7月23日)

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大分類 テキスト
資料コード 008444
内容コード G000000612-0008
資料群 旧佐敷町(佐敷村)広報
資料グループ 広報さしき 第169号(1991年8月)
ページ 4-5
年代区分 1990年代
キーワード 広報
場所 佐敷
発行年月日 1991/08/10
公開日 2023/11/28