なんじょうデジタルアーカイブ Nanjo Digital Archives

「仏桑花の会」作文コンクール

県教育長賞(準最優秀賞)受賞作品「父の教え」
町立佐敷中3年 
與儀真琴

「これからは、わたしが母を支えてがんばらなければ…。」と、幼心に決意したのは、父が亡くなった小学校4年生の7月のことでした。
働き者で、たくましく人一倍元気だった父が、突然の腹痛を訴え、入院することになりました。わたしは、母が父の看病のためで留守がちな家庭を、おばあちゃんと共に、妹たち3名の世話をみてきました。父の病気は順調に快復に向かっているのだとばかり思っていた矢先、胆のうの病気が急に悪化し、5カ月間の闘病生活もむなしく亡くなってしまいました。母もショックと不眠不休の看病疲れから葬式の2日後にとうとう倒れてしまいました。母は病院から帰ってきた父の遺体の側を一歩も離れようとしません。そのうえ、食事も取らず、悲しみに沈み茫然自失の状態でした。
わたしは、悲しみのどん底に沈み、やせ細っている母の姿を見てどうしていいのかわかりません。わたしは、これまで体験したこともない厳しい現実に身も心もつぶれてしまいそうなくらい、つらく悲しい毎日でした。
その時、いつもわたしたち姉妹の世話を親身になって見てくれた叔母が、「真琴、あんたは長女なんだから、お母さんを助けて妹たちのためにもがんばらないといけないよ。お父さんもきっと、そんな真琴を見守っているよ。」と話してくれました。小学校4年生というまだ幼いわたしでしたが、叔母の気持ちがひしひしと伝わってきました。そして、「そうだ、わたしが母を支えてがんばらなければいけないのだ。」と決意を固めました。
それは、最後の別れになった病院での父の顔があまりに強烈に残っていたからでもあります。
忘れもしない7月5日のことです。
突然学校から呼びもどされて、叔母と一緒に病院へかけつけました。父はげっそりとやつれ、全身痛々しくいろんな器具が取りつけられ、身動きも自由でない姿で横たわっていました。父は目にいっぱい涙をため、深い悲しみをたたえた表情でじーっと、わたしを見つめていました。わたしは不安と驚きで、口もきけずただ黙ったままでした。そのあと病室の外に出され、一時間後に父は永遠に帰らない人となってしまったのです。
父は家族のことを第一に考え、たくましく優しく働き者でした。自分のやるべきことはきちんとやりなさいと、口ぐせのように言い、けじめのある几帳面な性格をしていました、また、その反面、心が広くゆったりわたしたちを包み、つねに安心感を与えてくれました。わたしは、そんな父が大好きでした。あの日の父は、自分の最後を悟り、どんなに無念な思いをしたことでしょう。そして、残していく母や子供たちのことを思い、声にならないことばでわたしに語りかけていたのではないでしょうか。
父は、子供や母への限りない愛と別れの悲しみをこめて、わたしを見つめていたのだと思うようになりました。わたしはこの父の願いに答えて、母を支えてがんばらなければならないのだと、いつも自分にいいきかせてきました。
その後、母は元気を取りもどし1家5人が生きていくために、いつまでも悲しみに沈んでばかりにもいられないと、働きに出ることになりました。叔父の経営する建設会社へ事務員として入社し、新しい生活ヘスタートしました。
この日から、母とわたしの2人3脚が始まったのです。
わたしは学校から帰ると、忍1年生、理恵子幼稚園、文恵3歳の妹たちを母が帰ってくるまで世話をしなければなりません。妹たちは幼いばかりに、母が働きに出た事情などわかるはずもありません。わがままを言ったりむずかったりで、なかなか言うことを聞いてくれません。わたしも一緒に、泣きたくなることもありました。
あれからもう5年、わたしたち姉妹、そして母は心も体も大きく成長しました。母は、持ち前の明るさとやる気を持って、前むきに一生懸命がんばっています。わたしたちが寝静まった後に勉強をして、調理士の免許をとりました。
今また、簿記の資格をとるためにがんばっています。この母の生き方は、わたしに目標をもって前向きに生きることの大切さを教えてくれました。
わたしは今、母に学んで何にでも前向きに取組むことを目標に生きています。現在、生徒会長としてわたしは、生徒会活動や諸行事への取り組みに情熱を燃やしています。
これから先、どんな大きな問題がまちうけていようとも、わたしはこれまで経験したこと、学んだことを大切にし、つねに前向きに生きていきたいと思います。(全文)

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大分類 テキスト
資料コード 008442
内容コード G000000579-0023
資料群 旧佐敷町(佐敷村)広報
資料グループ 広報さしき 第144号(1989年7月)
ページ 11
年代区分 1980年代
キーワード 広報
場所 佐敷
発行年月日 1989/07/10
公開日 2023/11/26