ある披露宴会、ホロ酔い機嫌でお開きとなった。帰りを千鳥足でテクテク歩いていると、キューというタイヤの軋む音。車のドアが開いた。「先輩どうぞ」といわれるままに、後輩よろしく頼むよと。「私のように親孝行していると、このように助ける神がある。親の健在なうちに、うんと孝行しておきなさい」と、いらぬお世話の説教をして、ウツラウツラと夢心地でいるところに、「どうぞ着きました」という。
早や着いたかと酔眼モウロウとあたりを見渡したら、どうも勝手がちがう。さあお供しますというままに、千鳥足で靴を引きずってドアをくぐる。トタンに薄暗くて戦時中の防空壕のようなヒンヤリとした冷気。数分間鳥肌だって、夢心地でいたら孫みたいな年ごろの娘が左右から大サービス。
浦島太郎になったのではと夢うつつで頬をつねってみたが夢ではない。おだてられるままに左ノドの蛮声で、陸軍二等兵当時の軍歌から童謡まで披露した。「タンメーはウーマクヤミセーサー」と持ち上げられて、年甲斐もなく鼻の穴を天井に向けて得意になっていた。男はソーキ骨が足らんといわれるのも、多分このようなことに由来しているのでは……。
だいぶ時間が経たようなので、サヨナラをいって帰りのドアを開けてそよ風に頬をなでられた。可愛い娘さんから、「またいらっしゃい」とお世辞をいわれて満更でもなかった。
もう何時頃かと見上げた中天に上弦の月が美しかった。久しぶりに、 いのちの洗濯が
十二分にできた。行きは良い宵、帰りも良い酔の一席。 (平良亀順)