旧々人類で昔の話しかできない老骨の私。戦前の摂場でのこと。
当真嗣善さんの出張帰り。出張帰りというと聞こえは良いが、実は津波古のサカナヤー(料亭)で長居して腰を上げたときは、とっくに午前様もいいところ。
家まで帰るとなると夜が明けてしまう。どうせトンボ返りで役場に出勤せねばならない。思案の掲句、ままよ!役場の宿直室で一夜を明かすことにした。
宿直室には当直の渡名喜さんが、高イビキをかいてグウスカ寝入っている。押入れから枕を出そうとした嗣善さん、片隅に1本足の傘小僧が立っているのを見て思わずワァッと大声をあげた。渡名喜さんが「当真君、あれは私のキービサ(手製擬足)だよ」と。大笑いになった。
当時は、子どもが小川に落ちたとか、路上で小石につまずいたとか、または、黒砂糖をガリガリ食べてガブガブ水を呑んでお腹をこわして夏ヤセした時には、マブヤーウティ(魂落ち)といって「マブヤー込め」をしたものである。
その時にはカッテ(御願上手)の老女に「マブヤー込め」をしてもらった。供え物に豚肉、豆腐、見布、天ぷらなどのご馳走を用意し祈願する。供え物を食べ栄養がついて元気になったものである。
当真嗣善さんが役場でビックリしたことを奥さんに話した。奥さんは早速親戚のンメーに頼んで、酒小ツチブ(一杯)にマース(塩小)三本ウコー(線香)とご馳走を供えて「マグヤー込め」の祈願をしたとか。役場勤めで、村長にもなった方が「マブヤー込め」をしたとは、新人類は笑いの種にするだろうか。 (平良亀順)