数年前のこと、ペルー国の従兄から、「沙汰ンナラン呉屋主」の伝説を調べてくれとの依頼があった。
先輩や古老の数人に聞いても誰も知らないとのことで、結局、そのまま忘れてしまっていた。
さきごろ、沖縄タイムス紙に呉屋主の記事があったので、依頼の件を思い出し、そのコピーを従兄に送った。このほどお礼の書信も届いた。
呉屋主は若くして首里王府の奉行所の筆者職を務めていた。いつかは出世して家を建てるべく、彼はいつも家の設計図を懐に入れて持ち歩いていた。
ある日、その設計図を落してしまい探していた。上司である奉行が「これは誰のものか」と皆の前で呉屋主の設計図を差し出した。
「私のものです」と呉屋主。お前は何でこんなものを持ち歩くのかと問われた呉屋主は、すかさず、「将来そのような家に住みたいため」と答えた。
奉行は、設計図こそ立派だが、「沙汰ンナラン呉屋」と大声でアザ笑い、「君がこのような家に住めるほど偉くなったら、私のこの指10本切り落してみせよう」と。
それからは寸暇も惜んで勉強した。そして、三司官にまで出世し立派な家を呉屋主は建てた。大勢の人を招待し、勿論まっ先に奉行を招いた。祝いの席で、ご馳走の代りにマナ板と包丁を準備して上座に案内した。奉行は昔いったことを思い出して、ビツクリし緊張して座っていた。
呉屋主はおもむろに深々と頭を下げ、「私がこのような家を持つ身分になれたのはあなた様のおかげです」と丁重に礼をいったとのことである。(場天順)