5月3日は、憲法記念日です。日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する意義深い日です。全国の裁判所では、毎年、憲法記念日を中心とする5月1日から7日までの1週問を憲法週間とし、法務省や日本弁護士連合会の協力を得て、講演会等の各種行事を行なっています。
この機会に、民主主義を基調とする日本国憲法がその重要な原理として採用している法の支配と裁判所の働きについて説明しましょう。
民主主義国家においては、法の支配が強調されますが、それはなぜでしょうか。民主主義は、多数支配という形式的な制度を意味するだけでなく、本質的には、個人の自由と平等の保障、個人の尊厳の確保などを目指しているといわれており、日本国憲法も、数多くの基本的人権を規定しています。しかし、個人の自由を例にとっても、各自が勝手気ままに振る舞う自由を意味するものではないことに注意する必要があります。
個人の自由は、他人の自由と予盾するものであったり、衝突するものであってはならず、共存できる範囲においてのみ承認されるものであり、そうでなければ、社会の秩序は保たれません。
法は、このような自由の共存を図る上で重要な役目を持っているのです。すなわち民主主義の下における自由は、法によって最大限の保護をされてはいるが、反面、公共の福祉等の要請によりその限界が定められている自由であるわけです。
ところで、民主主義国家における法の役目は、個人の自由を単に隣人の侵害から保護することだけを目的とするものではありません。万一、国家権力が不当に行使された場合には、これによる侵害から国民の権利や自由を保護する役目をも持っているのです。
このような法の下においてこそ、すべての国民が安心して平和な生活を営むことが可能なわけです。我が国のような民主主義国家において、法の支配が欠くことのできない国家統治原理とされている理由がお分かりいただけたと思います。
国民から司法権を負託されている裁判所は、法の支配の維持について最終的な責任を負っています。すなわち、国民の間に法律に関する争いが生じたり、国民の入権に対する不法な侵害があった場合には、裁判所は、憲法や法律に従った公平な裁判を通して、国民の権利を守り、国民のための正義を実現します。
民主主義国家における国家機関の中で、裁判所が違憲立法審査権という重要な権限を与えられるなど日本国憲法の中でその役割を高く評価されているのは、このような理由によるわけです。
日本国憲法施行後、すでに39年の歳月が流れ、この間、裁判所は法の支配を維持する役割を果たしてきました。しかし、法の支配を支える最も重要な基盤は、国民1人ひとりが自ら法を守るという姿勢だと思います。法の支配の意義およびその維持者としての裁判所の役割をよく理解され、我が国を名実ともに法の支配の行き届いた国にしていこうではありませんか。