○本作品は、南部地区大会においても最優秀賞を受賞しました。
月日の経つのは早いもの、私も結婚して10年余りになりました。今では3人の子どもを持つ母親であり、また、職業婦人でもあります。
今、思い返してみますと、結婚当時、何も知らない私が、勤めを続けながら家庭生活を営んでいくことは大へんなことでした。
次から次へといろいろな問題が起こって、とまどうばかりでした。朝夕の食事の仕度、主人との勤めの時間の食い違い、これらにやっと慣れたころ、その次に起った最大の問題は、子どもを抱えて仕事を続けるか、家事、育児をどうするかということでした。
私の勤めている会社は、210人中、女性がわずか10人という男性社会の職場です。
今日でこそ女性の職場進出が著しくなっていますが、当時は、まだまだ周囲の環境は厳しいものでした。保育園への子どもの迎えのため、やむなく残業を断わったとき、上司の不機嫌な顔を横目に見ながら帰宅したり、あるときは、子どもが発熱し、会社にたびたび休みの電話を入れなければならなかったこと、また、職場からどんなに疲れて帰ってきても、すぐに夕食の仕度をしなければならないのです。
あるときは余りのきつさにしばらくジッと座わり込んでいると、下の子が、
「お母さん、ごはんまだ!!」
と、ひもじさに小さな声でかけ寄って来ました。その姿に〈食事を作らねば〉と腕に力をこめて立ち上がりました。しかし、洗濯もまだこれからです。食後の片付けもしなければ、1日が終わりません。そして、やっと床についたときは、死んだように眠りこんでしまいました。
このように家事と育児に疲労しきった体を無理に起して出勤しなければならない日が続いたときなど、働く女性の厳しさを、いやというほど感じました。
そんなとき、きまって私の口から出る言葉は「勤めをやめよう」「体が続かないワ、精神的にも疲れはてた」……。しかし、〈このまま仕事をやめてしまうと、自分にとって中途半端な人生になってしまいそうだ〉という気侍ちも半面にありました。私は、自分自身のためにも、勤めを続けながら、仕事の中に自分の生きがいを捜し出す努力をしました。
幸いなことに、ニューメディア時代とともに、会社では厳しくなる経営状況の中で、体質改善の一環としてOA機器を導入することになりました。
これまでの一般事務関係の仕事から、OA機器を使った業務へと変わり、連日厳しい訓練の末、ワープロやコンピュータの業務を担当するようになりました。専門的業務となり、これまで男性が行なっていた難しい作業処理業務も私の仕事になって来ました。
今では、私でなければ処理できない仕事もまだわずかですが持てるようになり、やりがいのある職場になってきました。それだけに責任も重くなったということでしよう。
このような厳しい状況の中で、私は現在の仕事を通じて男性にない自分の能力を見つけ出
仕事を侍つということは、職場、家庭、その周囲の社会との関りにおいて、思考し、行動し、その中から自分自身の手で何かを捜し出し、より一層自分を高めることにあると思うようになりました。
私の主人は、事業を営んでいます。厳しい建設業界で40人ほどの従業員と一緒に、毎日を必死に頑張っております。そんな主人の姿を見ていると、苦しい中にも男の生きがいを感じ取れます。
当然、帰宅時間も不規則で、夜中に帰って来ることなどひんぱんです。でも私は、誰よりも主人を信頼しており、そのことでグチなどこぼしたことはありません。それは、私が職業婦人として、男の社会を見てきたことにより、主人に対しても寛大な気持ちが持てるようになったからだと思います。
もし私が、家庭に閉じこもって自分に甘んじて生きていたなら、恐らくそのような気持ちは生まれなかったでしょう。
仕事を通して、社会との関りを深めた私の体験は、主人の仕事への取組みに対しても理解を持たせてくれました。
また一方、育児保育においても別な意味での成果を得ることができたようです。共働き家庭のため、子どもが小学校へ通うようになってから、誰もいない家に1人で帰って来て留守番をするような状態になりました。そんな生活環境の中で、私は帰宅後、努めて子どもたちに、自分の仕事の話をしてあげたり、あるいは学校のことを聞いたりして、少しでも子どもたちとの対話を持つように心がけて来ました。
おかげで今では、自立心の強い、しっかりした子に成長しております。上の息子など、弟や妹の予防接種のある日は、
「お母さん、僕が予防接種に連れて行くから、心配しないで」
と、私に気づかいながらいってくれます。そんな姿を見ると、かわいいだけでなく、頼もしさも感じております。 “鍵ッ子”といわれるような状況の中で、明るく育ってくれた息子を見ると、感謝せずにはいられない気持ちです。
先日、ある新聞の“国際婦人の10年最終年”のシリーズ記事中、吉川文子先生の記事を読ませていただきました。吉川先生は、現在、県教育委員会で、唯一の婦人委員としてご活躍なさっております。
記事の中で先生は、「女性の地位の向上は女性がにぎっている。職業婦人として生きて行くためには、女性としての仕事に対する意識の改革が必要だ」と述べ、まさらに「家庭内では密度の濃い親子関係を保つことが大事であり、働いている以上、子どもを犠性にしている。しかし、犠牲にしているからといって、その子どもがよく育たない、などという女性は働く資格がない」と、厳しく指摘されていました。
これを読んで、これまで私は、仕事と家庭の両立はできないものと時々弱音を吐いていたのが恥ずかしく感じられました。
3人の子どもを持つ私は、忙しい中にも現在では毎日が充実しております。これからもさまざまな出来事にぶつかり、迷ったり、困ったりすることも数多くあるでしょう。でもそんなとき、それを乗り越えるための努力をすれば、できないことはないと信じています。
私は今、こうした姿勢で職業を生きがいとし、自分の専門技術をフルに生かして、素晴らしい職業婦人になりたいと思っております。
最後になりましたが、これからも未熟ながら自分の経験を生かし、また、いろいろな方々のご意見や教えを受けながら、「人間的に豊かな魅力」をかね備えた働く女性を目指して、地道に努力し頑張っていきたいと思います。