なんじょうデジタルアーカイブ Nanjo Digital Archives

くらしに緑を 丘陵の木々、銀穂なびくキビ畑、ふるさとは緑の宝庫 フリーライター 安里英子

11月のアラニシ(荒北風)がすぎると、穏やかな天気が続いているが、空気は乾いて大地は水をほしがっている。サトウキビの花だけが陽に照らされて銀色にうねっている。海辺に沿うこの町の緑といえば、大きくわけると、背後に続く丘陵の緑と低地のサトウキビ畑ということができる。丘陵の緑もススキの繁殖のみが旺盛で、せっかく植樹したデイゴの生育もいまひとつと聞く。とはいえ、小谷や字佐敷の山の緑は深く、島尻広しといえども、数少ない緑の宝庫といえるのではないか。
ところで、サトウキビはなんと不思議な植物であろうか。そのときどきによって部落の風景を変えていく。収穫の後、株はふたたび芽を出し、梅雨をすぎると背たけもグンと伸びる。11月もすぎると、いっせいに花開いて、すっかり“お隣りさん”が見えなくなる。
私がこの町にひっ越してきたのは、ちょうど去年のキビの花咲くころ。
新築したばかりで塀も樹もないが、家をかこむキビ畑はちょうどよい目隠しになっていた。月の照る日は部屋の中までキビの穂が映り、幻想的でさえあった。がある日、仕事から戻ると、家の周辺の風景が一変していた。キビはきれいに刈りとられ、これまでは屋根の一部しか見えなかった隣家が身近にせまり、まる見えなのだ。私の家もまるで衣服をはぎとられたようで、庭に出るのも人目が気になり差恥をおぼえた。
―うりずんの季節になると、やわらかな芽がのびてホッとする。
が、それも束の間、ヘリコプターによる農薬の空中散布がはじまり緑があえぐ。それはまるで戦場のようで、すっかり夢から覚めてしまった。
木のない屋敷はあまりにも無防備な気がして、我家もあわてて樹を植える。きくところによると、戦前まではどの部落もうっそうとした大樹がしげり、ガジュマルのおとす陰は昼の太陽もかくすほどであったとか。
農作物は、人間との食物連鎖の中で小きざみに消えていく。庭木や観葉植物も美しいが、それもあまりにもはかなすぎる。何十年、何百年と生きつづける樹を、海辺に、屋敷囲いに、のっぺらと整備された畑のまわりに植えていかなければ、潮風の吹く海辺の町は、風にさらされるままでつらい。
※この欄では、皆さんの投稿をお待ちしております。  佐敷町投場広報係宛

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大分類 テキスト
資料コード 008436
内容コード G000000497-0011
資料群 旧佐敷町(佐敷村)広報
資料グループ 広報さしき 第80号(1984年1月)
ページ 6-7
年代区分 1980年代
キーワード 広報
場所 佐敷
発行年月日 1984/01/10
公開日