偏見とは、こういうことなのか。新里やすこさんに会ってまずそのことを思い知らされた。
町内で初めて県の畜産共進会で金賞の一席を射とめた人がいるという。しかも、女性だ。経済課の職員に案内されて彼女をたずねた。出てきた彼女を見てインタビュアもびっくり。まさかこの人があの養豚農塚の新里さんだなんて。前もって連絡してあったわけでもないのに、きれいに化粧してゆびには、マニュキュアさえ光る。まさしく我々の偏見であったのだ。
このように近代的で美しき女が養豚をやっていけないという法は、どこにもないのである。
かえって新里さんみたいな人がどんどんこういう職業に進出してはじめて町の畜産業も発展するのではなかろうか。
新里さんも数年前までは、会社勤めをしていた。それまでは姑さんがやっていた養豚にさほど興味を示さなかったという。
ところが、姑さんも寄る年波には勝てず、豚を手ばなそうかというときになって、新里さんはふと思った。「私にもできないかしら」と、家族と相談の結果みんなのたすけをかりて、一応彼女にまかされることになった やりはじめたらたいへん。思ったほど楽な仕事ではない。ハイヒールを雨ぐつに、ワンピースをGパンにかえ、残パンの収集、えさの準備、掃除、悪戦苦闘の毎日がはじまったのである。彼女が養っているのは母豚。「子供が一度にたくさん生まれるでしょう。その中からこの子はじょうぶな母親になりそうだと見わけるのがむつかしい。それがまた楽しみなんですね」と明るく話す新里さん。沖縄一になるには、残パンを快く提供してくれた人、家族、とくに姑さんのアドバイス、同業者の援助など多くの人々にささえられたことを一番彼女がよく知っている