試験観察の制度は、少年の教育可能性、環境の活動性を考慮して、少年に最もふさわしい処遇を加えようとする少年法の考え方の表れです。特に、補導委託は、民間のボランティアの協力を得て非行から立ち直ろうとする少年を援助しようという、極めて有意義な制度です。少年の身柄を引き受けて指導しようという補導委託先の地味な熱意によって、立派に社会人として立ち直った少年は少なくありません。こうした民間の人々の少年保護に対する理解と協力を一層期待したいものです。
家庭裁判所は、非行のある少年の健全育成を目指して保護処分その他の必要な処分を決定していますが、少年の資質や環境などの問題について、より多くの資料を集めた上でなければ適切な最終決定をしにくい場合があります。
このような場合には少年を家庭裁判所調査官の観察に付して少年の動向をしばらく観祭するとともに、必要に応じて様々の働き掛けを行い、その成り行きを見極めた上で最終決定をするという方法が執られます。
これを試験観察といいますが、その場合、家庭裁判所調査官の観察に併せて民間の施設、団体又は個人に少年の補導を委託することがあり、これを補導委託と呼んでいます。
補導委託には、少年の身柄を家庭に置いたまま学校の先生などにその補導だけを委託する、いわゆる在宅補導委託の方法と、少年を身柄ごと他に預けてその補導を委託する、いわゆる身柄付補導委託の方法とがあります。少年事件の中には、例えば、不良交友から抜け出すことができないため非行を反覆するとか、親子関係に問題があることから非行に走り、そのためますます家庭のかっとうが高まるなど、本人自身の問題よりも周囲の環境に問題があるために更生できないケースが少なくありません。
このような場合には、少年を従来の環境から切り離して心身の安定を図り、併せて環境の改善のための働き掛けをするという身柄付補導委託の方法が非常に有効です。
全国には、非行のある少年の更生に理解を持ち、積極的に少年を引き受け、補導に当たろうという熱心な補導委託先が多数あります。これらの補導委託先は、施設や団体のほか、個人規模のものもあり、その職業も、農業、建設業、美容院、飲食業など様々です。
家庭裁判所では、委託先の特徴や少年の希望なども考慮した上で、最も適当なところに補導を委託するわけです。補導委託先では、少年たちが一日も早く立ち直ることができるように、親身になって相談に乗ったり、忠告したりします。
少年たちは、委託先の人たちと共に農作業をしたり、大工や美容師の見習い、自動車修理工などとして働き、施設の主幹者や受託者個人だけでなく、そこで働いている他の人たちとも新しい人間関係を作っていきながら、従来の自己の生活を振り返り、以前の交友関係を断つなどして、非行から立ち直るきっかけを得るのです。
家族でもなく、公の機関でもないこのような民間の人たちの温かい人間的な触れ合いを通して、少年たちは、次第に落ち着きを取りもどしていくわけです。
また、この間、家庭裁判所調査官は、補導委託先と十分連絡を取りながら定期的に委託先を訪問して少年を励ましたり、あるいは、少年の指導について施設の主幹者や受託者個人にアドバイスをしたりするほか、少年の保護者の自覚を促し、委託先を訪問させたり、休日には少年を家庭に帰したりするなど家族関係の調整を図り、不良交友を断つための働き掛けを行うなど、資質、環境両面の改善のために様々の措置を講じます。
こうして、家庭裁判所は、おおよそ三か月から六か月までの間の少年の行動や生活態度を考慮して、少年の今後の処遇についての見通しが得られた段階で、最終的な処分を決定します。
試験観察中の様々な働き掛けにもかかわらず、不良交友を断つことができず再び非行を繰り返したり、将来になお不安が残る場合には、少年院に送致したり、保護観察に付することもありますが、補導委託先での生活がきっかけとなって少年の自覚が深まり、交友関係や家庭環境が改善され、再非行のおそれもないと判断される場合には保護処分に付す必要がないとして不処分決定がなされます。
試験観察の制度は、成長過程にある少年の教育可能性や環境の流動性を考慮して、個々の少年に最もふさわしい処遇を加えようとする少年法の考え方の表れです。特に、補導委託は、民間のボランティアの協力によって非行から立ち直ろうとする少年を援助しようという、極めて有意議な制度です。補導委託先の中には、少年法施行以来30年にもわたって少年の更生のために力を尽くしてきているところもあります。このような地味な活動のお陰で、立派に立ち直った少年は、少なくありません。不幸にして非行に陥ってしまった少年の一人一人を、社会のみんなで支えていくことこそ少年保護の在るべき姿であり、ひいては、それが平和で秩序ある社会を作ることに大きな役割を果たすものであるといえましょう。
少年法における試験観察、補導委託の制度について、社会の理解と協力が一層望まれます。