農地の売買、貸借、交換は農家にとっては一大事です。
ふえるものはともかく、土地を手放すことについては、身をけずる思いがするものです。
しかし、一大事ということは変らないにしても、土地を売る、貸す、あるいは小作するといった場合は、戦前にあったような暗い面はほとんどなくなりました。
農地を借りて経営面積を大きくすることは、かつての小作の姿ではなく、農業を専業として生きる新しい経営者の進む方向です。
また、農地を貸したり、売ったりして手放す場合、新しい生活設計にもとずいての転進の足がかりとし、その手放された農地が、規模拡大をはかろうとする農家に引きつがれることによって、従来以上に生産に貢献するといった新しい考え方にたつようになってきました。
むろん、土地の権利の移動は、農家経済、農業経営にとって、一大事でありますが、それだからこそ、あとで後悔しないように十分に研究することが大切です。
このためには、農業経営、維持、拡大発展させるにせよ、それらに伴う農地の問題については、まず農業委員会に相談することです。
農地の権利については、いずれにせよ一度は農業委員会に出向かなければ手続きできないわけですが、農地移動について、農業委員会にあっせんしてもらうとさまざまな利点があります。
そこで現在ある農地の移動をできるだけ適正な方向に持っていくこと、また、農地を手放したい人にも、安心して手放してもらうため、「農地移動適正化あっせん事業」というものがありますので、この説明をいたしましょう。
※あっせん事業は村の計画にそって実施される!
昭和44年の「農業振興地域整備法」の制度により、農業委員会があっせんを行う場合は、農業経営の規模の拡大や、農地の集団化など、農地の保有合理化に役立つようにすることが義務づけられたわけです。
つまりこの法律では「農業委員会が、農業振興地域内の農用地、地域内において、土地の権利の移動をあっせんする場合は、村の整備計画にそって農地保有を合理化するように努める」となっており、あっせん事業とは、これを具体的におこなうことをいいます。
農地移勅の適正化といっても、なにを基準に適正かを判断するのかということですが、それには、農業振興地域の指定をうけた市町村が、その地域で定める整備計画農地の権利取得円滑化計画、農業近代化施設の整備計画が基本になります。この基本にそって村のあっせん基準が設定されております。
※農地をふやしたい場合あっせんの基準は?
あっせん事業は、以上にのべたように、農業振輿地域整備法によっておこなわれていますが、基本的には、あっせん基準にもとづいておこなわれます。
このあっせん基準には①農地等の権利を取冊できる農家はどのような条件を備えていなければならないか②権利を取得できる者のうち、あっせんをおこなう順位をどうするか③農業構造改善事業などほかの事業との関連をどうするかなどを」定めることになっています。
さて、それではどのような農家があっせんをつけられるか、あっせん基準の作り方から説明しましょう。
要は、農業経営を真剣におこなっているかどうか見るわけです。
(1)第一に、もっぱら又は主として農業経営に従事している家族農業従事者が、青壮年を含めて、2人以上いることが条件です。
農業生産法人の場合は、家族というより、常時従事が、2人以上いることが必要です。
(2)次に、経常主あるいは後継者が農業に従事しており、今後も農業によって自律しようとする意志と能力をもつこととなっています。
(3)その農業経営者が、60才以上の時は、その後継者が現に農業に従事しているか、または近く従事することが確実であること。
(4)権利を取得したあとの経営面積が、その地域の平均、経常類型別の平均より大きくなること。
(5)取得した農地等を農地利用法計画で示す用途区分にしたがって利用することが確実であると認められるものであること。
以上の、5つの条件を満たしていれば、あっせんをうけられるわけですが、これだけでは地域によっても希望者が多く、権利を手放す人がごく少ないのに、権利を取得、つまり農地を買いたい人が多く誰にあっせんするか人選に苦労します。
そこで、あっせん基準には、あっせんによって農地を取得できる人が、二人以上いる場合に、つぎのような点を考えるよう、順位についてもあらかじめ明らかにしておくことになっています。
ア.農地等の権利を取得したあと、権利取得者の経営面積が、農業委員会の決めた、地区の目標経営面積に近い者を優先的にあっせんする。
イ.農業振興地域整備計画、農業構造改善計画等で育成しようとする農業経常をおこなおうとするに優先的にあっせんする。
ウ.あっせんする農地が、農道、水利、通作距離などの条件からみて、その農地を最も効果的に利用することができると認められる者に対して優先的にあっせんする。
エ.農業等の集団化に役立つ程度が大きいものを優先する。
以上は一般の場合のあっせん順付の決め方で、農業委員会は、これにもとづいてあらかじめその地域に合った具体的なあっせん基準、順位を作っておき、それにもとづいてあっせんをするわけです。
ただ、農業基盤整備事業や、農業構造改善事業などの関連で、すでにのべたあっせん基準ではなく、特別の基準であっせんをしたほうがよい認められた場合、あっせんをうける人の資格や、優先順位などを特別な基準できめることになっています。
※あっせんできる場合とできない場合!
それでは、どのような場合にはあっせんがおこなわれないかを整理しておきましょう。
まず、あっせんをおこなう場合については、次の(1)から(4)までのどれかに該当することが必要です。
(1)農地等の所有者から売り渡し、又は貸付についてあっせんの申し出があった場合。 (2)あっせんを受けられる資格をもつ人から、農地等を買い受けるのか、借り受けたい旨の申し出があり、あっせんすることが適当だと認められる場合。
(3)農用地等の交換あっせんの申し出があった場合。
(4)以上のべた(1)から(3)までの譲渡、または貸し付けのあっせんに直接関連して、他の農地等の譲渡、または貸し付けのあっせんをおこなうことが必要と認められる場合、以上とは逆に、次のような場合にはあっせんがおこなわれません。
農地等の所有者から、①その売り渡し、または貸し付けの相手方を指定してあっせんを申し出た場合、②おおむね5年未満の矩期間の使用貸借についての申し出があった場合です。
※相談から「あっせん」成立まで!
①まず農業委員会で大まかな希望をのべ、情勢を聞き手続きの指導受ける。
②具体的なあっせん希望内容を固め農業委員会に申出書を提出する。
③農業委員会はあっせん基準や、あっせん順位の基準にしたがい、あっせんできるかどうかを決め、できるものは、あっせん委員を指名してあっせんをおこなう。
④あっせんが成立すると、所定の登記や融資その他手続きをすませる。
⑤税制関係の優遇をうけるための証明書も忘れずにうける。
※あっせんの手続!
それでは、いよいよあっせんの手続きを説明しましょう。
あっせんを希望する農家や、生産法人は、農業秀員会にあっせんを申し出て、あっせん希望の意思表示をしておくことが必要です。
それには、農業委員会で相談、簡単なものでも申出書を出すのが良いでしょう。
※農地を買いたいまたは借りたい場合!
申出書に記入する内容は、申し出る本人の氏名、住所、現在の農地の保有状態、あっせん希望面積、経常の概況が必要です。
また、農地を買いたいのか、借りたいのかもはっきり記入し、参考のために、通作距離や営農計画からみて、およそどの地城の農地を希望するのか、もし希望道りになったら、どのよう農地利用計画、営農計画があるのかも記入されたほうがよいでしょう。
前にのべたように、ほかにも同じような希望があった場合、通作の便や権利取得後の農業経営発展への貢献度などの点から、あっせんを優先されるかどうかが決まるからです。
※農地を売りたいまたは貸したい場合!
この場合も住所、氏名、農地保有状態、経常概況を申出書に記入します。
また、買いたい、借りたい場合とちがい、具体的に売りたい、貸したい農地の現況、面積のほか、参考のためにおよその希望価格を記入します。
あっせん価格は、その地域での価格水準をまわらない上まわらない範囲にとどめることになっております。
説明すると面倒なようですが、売買貸借、いずれにしても農地に関する権利の移動については、まず農業委員会に相淡し、指導を受けて手続きすればよいわけです。
あっせんを受けますと、次のような、優遇借置があります。
(1)所得税
ア、農用地区域内の、土地をあせんにより譲渡した場合には、譲渡所得について、500万円の特別控除が認められる(一般の場合は五年以上所有していた土地の長期譲渡所得に限って100万円の控除)
イ、農用地区域の土地をあっせんにより、農地等を買い換え特例が適用され、買い換え資産価格が、譲渡所得の裸税対象から、除外されます。
ウ、農用地区域内に買い換えた場合には、買い換資産価格が譲渡所得の課税対象から、除外されます(この場合に限って、あっせんでない場合でも、対象となる)
尚、イ、ウの場合の面積は、5倍までとなっているが、農業委員会が適正であると認めた場合は10倍まで認められます。
(2)登録免許税
農振法に基づく、農振整備計画の決定の日から、十年以内に、取得した場合には、税率が千分の五から、千分の六に軽減されます。
(3)不動産取得税
農用地区域内の、土地の価格の、三分の二の額を、課税標準にされます。
※融資
本事業と関連して、資金の必要な人に対しては、年利三分五厘で三年すえおき25年払いの農地取得資金、未こん地の融資が受けられます。金額は普通の場合で800万円、特認の場合は1000万円で法人の場合は、3200万円となっております。