村長 外間長賢
私は沖縄市町村会から推薦されまして南部代表として1967年10月27日から11月18日までの23日間本土に出張して、研修して参りました。
出張の目的は二つありました。第一の目的は、1969年度の日本政府の沖縄援助金の中に、新しく沖縄の市町村に財政援助をしてもらいたいと云う日本政府に対する陳情と、第二の目的は、本土の中で沖縄に似通っている島根県、徳島県、高知県を廻って、本土市町村の実状を研修して来ることでありました。
日程は左の通りであります
10月27日
陳情及視察研修町村長六人は午後9時35分那覇飛行場を離陸、午後11時45分東京羽田飛行場着陸、全国町村自治会館に投宿
10月28日
総理府の山野局長訪問
上京の挨拶と援助要請
沖縄東京事務所で今後の日程打合せ
10月29日
村出身東京在住の方々と懇談会(村の現況報告と中学校移転に対する御協力願い)
10月30日
衆議院議員の床次、臼井両代議士を訪問、側面援助を要請
参議院に山本、安井の両氏を訪問し側面援助を依頼し南方同胞援護会を訪問し大浜信泉先生に援助を要請
10月31日
吉田元首相の国葬で政府訪問はだめ
千葉県八千代市を視察研修
11月1日
塚原総務長官訪問、財政援助費(15億円)の全額獲得に努力する」とのお約束あり
2時すぎ大阪へ向う
西淀川区塚元で村出身者と懇談会、村の現況報告と中校移転への協力願
11月2日
堺市で村出身者と懇談会 前日に同じ
11月3,4,5日
村人訪問、親せき訪問
11月6日
大阪発、島根県松江市着
11月7日
大東町を視察研修
11月8日
島根県松江市発徳島市着
11月9日
藍住(アイズミ)町と石井町を視察研修
午後5時徳島発、10時高知着
11月10日
高知市の農業構造改善と野菜の協業化を研修
11月11日
高知発 愛媛県松山市着
吉金四郎先生と面談す
11月12日
高浜港発 大分県別府着
11月13日
別府市観光で一日すごす
11月14日
別府市発 福岡市着
11月15日
古賀町を視察研究
東病院に県出身結核患者を慰問激励
九州大学園芸学部を訪問 砂による農業を研修
11月16日
福岡発 鹿児島西駅着
11月17日
鹿児島見学
11月18日
鹿児島発 那覇空港着
以上
第一の目的は、実現出来てうれしい限りであります。
第二の研修目的について
1 各県、各町村共、若者が都会に働きに出て行き、農業に専念する者が少くなって困っている。特に島根県はひどい。
2 この現象は社会のしからしめる所で仕方がない。残って農業する者が、どうしたら喜んで農業に専念するかを研究している。そこで農業構造改善が県を主体として立案され、各町村がこれに同調して大きな効果を上げ、農家の収益を増やして、自信満々である。
3 農家が又これをよく理解して協業化作業が盛んに行われていて、うらやましい限りである。
4 市町村の合併が終っていて吏員の員数にゆとりが出た為に、役所内の事務改善がスムーズに行われて町村民のサーピスに大変役立っている。
5 視察研修した各町村共、住民と吏員が笑顔で接していて、互に信頼し合っていることが特に感じられた。
6 九州大学園芸学教室参観は大きな驚きであった。
(イ)将来の農業は砂でなければならないと云われている。
例(1) 「菊作りは土作り」と云われているが、砂に液体肥料を使って、土以上に成育していた。研究の結果は、土に作られた菊より花が長持ちすると云う。
(ロ)浅植えであった。
例(2) キウリ栽培キウリの柄が、えらい長く伸びているが下葉一枚も枯れていない。だが砂を堀ってみたら、5センチ位の深さで下にはビニールが敷いてあった。
(ハ)沖縄は気候風土から見てみかん、ヤサイ、ハナの栽培に最適地だとの話
例(3) みかん栽培砂だけで栽培されているが、その出来方は実に見事であった。実をとって下さったが、大変おいしかった。
例(4) ピーマン、人参の栽培区画して、砂に作ってあるものと、土に作ってあるものと比較してあるが、葉は両方とも繁っているが実の出来具合は比較出来ない位の差があった。
九州大学園芸学教室の主任教授福島博士は
1 作物の根は表面にあるものだけが養分を吸いとる働きをする。
2 砂は作物の成育に必要な空気と湿気をいつも含んでいる。
3 砂は栄養分を含んでいないので雑草が生えない。だから中耕除草の必要がない。
4 次の作物を植えるのに土壌消毒はいらない。唯フルイで前の作物をとり上げる時に、切れて残った根だけを取り去ったらよい。
と説明しておられた。
以 上
そこで私達が、よくよく考えなければならないことをまとめて見ました。
A 私達の悲願である祖国復帰は近い中に実現するであろう。祖国復帰した時には必ず町村合併が至上命令の如く行われるだろうと強く感じました。
従って琉球政府が先頭に立って今からその具体化を進め、われわれ沖縄住民も感情だけに流れずにその決意を固めて行かねばならないと思います。
B 農業構造改善について
キビ作り一点張りの沖縄は、今のまゝの農業ではめしが喰えなくなる。農家は真剣になって協業化を考えて貰わなければならない。それと共に畜産その他ヤサイ等の作物をとり入れて、沖縄だけで売ったり買ったりする考えでなく、日本本土に移出するように目を開いて貰わなければならないと強く感じました。
C 町村合併問題と農業構造改善の問題は、よくかみ合わせて、政府、沖縄市町村会、沖縄市町村議長会、琉球農協長会等が一糸乱れない態勢を作って立向わなければならないと考えます。各町村でこの大きな問題を考えて見ても解決はむづかしい、唯今からでも話し合いが初められることは、どうすれば農家の収入を増やすことが出来るか、協業と云うことはどうすることでどんなに考えて進めればよいか、と云う事位であると思います。でも政府の施策がきまるときまで待つわけに行きません。村と農協と打合せまして今後その面の話し合いを出来るだけ早い時期に行いたいと考えておますので村民の皆様の御協力を強くお願い申し上げる次第であります。
D次に佐敷村出身の東京、名古屋、大阪、堺各市に在住されておる方々の意見を綜合致しますと
1 沖縄の祖国復帰を願う気ち持は、沖縄在住の私達と同様に否或はそれ以上の熱度を以って考えている。
2 村公報が、わずかな部数ではあるが送られて来るので、村の状況がよくわかり大変うれしい、出来ることなら部数をふやして送ってもらいたい。
3 沖縄在住の皆さんが、本土の状況を知りたいと思っている以上に、私達本土在住者は郷里の香りを恋しがっている。だから皆様が公用私用を問わず本土に渡航されるときは連絡していただきたい。
4 本土在住者の協力が必要な時は、出来るだけ各部落で調査して、もれる者がない様に依頼状を出して欲しい。学校の八十周年記念事業等依頼がなくて、へそをまげた者も居たとの事
5 大体生活は安定していて苦しんでいるのは、わずかであるとの事
6 毎日の生活に忙しく、故里の先輩の方々への音信をしていないが、村民皆の御健斗と故里佐敷村の発展を心からお祈りしているから郷里の皆様にくれぐれもよろしくとの事でありました。
以上
大変かんたんで申訳ありませんが筆では書き表すことの出来ない部面もありまして、これで報告と致します。